旧野﨑家住宅 後編

 旧野﨑家住宅の北側には、南から順に内蔵、大蔵、書類蔵、新蔵、岡蔵が並び、内蔵の裏に夜具蔵がある。

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手前から内蔵、大蔵、書類蔵、新蔵、岡蔵

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夜具蔵

 これらの蔵のうち、岡蔵と大蔵が資料館となっていて、大蔵は野﨑家塩業歴史館として公開されている。

 岡蔵では、雛人形の展示が行われていた。

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岡蔵

 古い雛人形が多かったが、明治23年に製作された明治天皇雛などが目をひいた。

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明治天皇

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 大蔵は、野﨑家塩業歴史館として、野﨑家の塩業の歴史に関する資料を展示している。

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手前から、書類蔵、大蔵、内蔵

 野﨑武左衛門は、入浜式塩田を開発したことで、塩田王となって巨万の富を得た。

 岩塩資源のない我が国では、古くから海水から塩を生産してきた。入浜式塩田とは、海水の干満の差を利用して引き入れた海水を、撒砂の表面に染み出させて、水分を天日で蒸発させ、着塩した散砂を沼井(ぬい)に入れ、海水を注いで濾過させることで海水の5~6倍の濃度の鹹水を得る製塩法である。 江戸時代初期から昭和20年ころまで盛んに行われてきた。

 晴日の多い瀬戸内海沿岸部が入浜式塩田に向いている。

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入浜式塩田の説明

 野﨑家製塩歴史館には、野﨑武左衛門の愛読書の「絵本太閤記」や、江戸時代の製塩のバイブル「塩製秘録」が展示されている。

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絵本太閤記

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塩製秘録

 明治時代の野﨑家当主武吉郎は、多額納税者として貴族院議員に選ばれた。

 館には、日本史上初の議会となる明治23年(1890年)の第1回帝国議会貴族院議員議席表が展示されていたが、最前列は皇族と公爵が占め、以下公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、勅選(議員)、多額納税者の順で席次が決まっていた。

 野﨑武吉郎の席は、赤色に塗られている席である。

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第1回帝国議会貴族院議員議席

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 公侯伯子男の爵位の中で公爵が最も格上だが、当時の公爵家は、藤原家から分かれた五摂家と呼ばれる摂政に選ばれる貴族の家柄と、徳川宗家、島津宗家、毛利宗家だけだったことが分かる。31番の席の侯爵尚泰は、最後の琉球国王尚泰王である。

 勿論帝国議会には衆議院もあったが、大日本帝国憲法下での議会の力はまだまだ弱かった。

 この議席表を見ると、日本の政治の民主化が長い時間をかけて達成されたことが実感できる。

 また、大日本帝国時代の官吏の制服を記載した「帝国服制要覧」が掲示されていた。

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帝国服制要覧

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 皇宮警察官、警察官、司獄官(今の刑務官)、税関職員だけでなく、朝鮮総督府文官、台湾総督府文官、関東(満州南部)都督府文官の制服も記載されている。

 先の貴族院議員議席表と、この帝国服制要覧を見ると、大日本帝国の国家体制が、一つの伽藍のように、天皇を中心として放射状に秩序付けられていたことが実感できる。

 大日本帝国憲法という憲法の、というよりはその憲法を元に整備された国家体制の構造的欠陥と、そこから必然的に招来された敗戦という結果については、またいずれ触れる時が来るだろう。

 塩業歴史館には、ポーランド産の巨大な円柱状の岩塩や、様々な国で採取された岩塩が展示されている。

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ポーランド産の岩塩

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世界各国の岩塩

 生命は海で誕生し、オゾン層が出来て地上に降り注ぐ紫外線の量が減ってから、地上に進出してきた。

 地上の動物が生きていくには、塩分が必要である。人間の血液中の塩分濃度と海水の塩分濃度は同じである。

 我々が塩分のある料理を旨いと感じるのは、我々の祖先が海で発生したことの証である。塩業に商機を見出した野﨑武左衛門は、先見の明があったというべきだろう。