蓮台山八浄寺

 御井の清水から国道28号線を南下し、淡路市佐野にある蓮台山八浄寺を訪れた。

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蓮台山八浄寺

 ここは真言宗の寺院である。淡路には、淡路七福神と言って、七福神の神様それぞれを祀る寺が七つある。

 この八浄寺は、淡路七福神の総本院であり、淡路七福神霊場会の事務局が置かれている。

 淡路七福神は、淡路島を七福神が乗る宝船に見立てて巡拝するもので、その気になれば1日で全て巡ることが出来る。淡路七福神を巡れば、七つの幸福を得ることが出来るとされている。

 淡路七福神巡りは、縁起が良くて御利益があるとされ、霊場巡りとしてはコンパクトで手軽なため、意外な人気を持っている。

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淡路七福神のポスター

 七福神は、恵比須、大黒天、毘沙門天、弁財天、福禄寿、寿老人、布袋の七柱の神様である。

 恵比須は日本の神様であり、大黒天、毘沙門天、弁財天は元々インドの神様で、仏教に取り入れられた。福禄寿、寿老人は道教の神様、布袋は中国に実在した禅僧である。

 七福神信仰は、長い時をかけて日本の民衆の間に広まった日本独特の信仰である。

 八浄寺は真言宗の寺院であるが、元々真言密教の教義と七福神は何の関係もない。しかし宇宙に存在するあらゆるものを大日如来の発現とみなす真言密教の考え方からすれば、七福神大日如来の化身であり、教えの中に包摂することができる。いつしか真言宗は、七福神信仰をも飲み込んだ。

 この八浄寺は、大黒天を祀る寺である。

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八浄寺の鳥居

 八浄寺の門前には、寺院なのに桜の木で組まれた鳥居がある。そこに扁額ではなく、竹の塵取り二つを重ね合わせて、その上に「弁財天」と書いたものが掛けられている。

 大黒天を祀る寺院なのに、なぜ弁財天なのかと疑問に思ったが、後で調べると、淡路島には江戸時代中期から淡路巡遷妙音(通称回り弁天)という行事が行われており、それに関係していることが分かった。

 江戸時代中期に佐野に住んでいた目の不自由な男性が高野山を参拝し、そこで授けられた弁財天の掛け軸を淡路に持ち帰って拝むと、視力が回復したという。

 その後、この掛け軸は、1年ごとに淡路島内の寺院が持ち回りで祀ることになった。毎年12月6日に掛け軸が当番の受け入れ寺院に到着し、翌年12月5日に次の受け入れ寺院に向け出発するという。

 今年は、八浄寺が回り弁天の掛け軸を祀っているそうだ。

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仏心開花の山門

 鳥居を潜ると、仏心開花の山門がある。山門の床には、仏教の慈悲の象徴である蓮弁が彫られ、そこに光明真言梵字が刻まれている。

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蓮弁

 光明真言は、破地獄の真言と呼ばれ、唱えれば無明を除き、人を悟りに導く絶大な功徳があるとされる真言である。

 山門を潜って境内に入ると、目に入るのは巨大な金属製の塔である。

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瑜祇七福宝塔

 瑜祇七福宝塔というらしい。近づいて触ってみると、金属とコンクリートで出来ているのが分かった。白色の部分は金属だが、表面は滑らかで、太陽光を反射してぴかぴかしている。

 これを見ると、ついつい私の世代が幼いころに放送されていた、ロボットアニメの「ゲッターロボ」のゲッター1に似ていると思った。ゲッター1も赤と白でカラーリングされた巨大ロボだった。

 一度そう思うと、もうこの塔がゲッター1にしか見えなくなった。瑜祇七福宝塔の御本尊は大日如来だそうだが、宇宙の全てを大日如来の顕現と説く真言宗の教理からすれば、架空のヒーロー、ゲッター1も大日如来の化身なわけで、私の見方も教えに反しているわけではない。

 この塔は、年三回の秘仏の大黒天が開帳される日に合わせて開扉される。扉の中に、色鮮やかに描かれた「仏教絵図」があり、太陽光が塔の上から自動で差し込む構造となっているという。太陽光は、光の柱となって地下まで届き、地下にある巨大な水晶に反射して四方に放射されるそうだ。

 瑜祇七福宝塔の前には、七福神の石像が置かれていた。

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七福神の石像

 七福神の背後の石は、中国庭園でよく見られる石灰石の太湖石である。

 境内には弘法大師空海を祀った大師堂があるが、蟇股の彫刻が、三鈷の松であった。

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大師堂

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三鈷の松の彫刻

 空海が唐で真言密教を修得して帰国する際、日本にて教えを広めるための道場をどこに開くべきか、仏様に導いてもらうため、師の恵果和尚から授かった三鈷杵を唐の浜辺から日本に向けて投げた。

 帰国した空海が、山野を跋渉していた時、高野山の松に自分が唐から投げた三鈷杵が引っ掛かっているのを見つけて、ここに真言密教の道場を開くことに決めたという。

 彫刻には、松に掛かった三鈷杵が彫られている。ちなみにこの三鈷杵の実物は、飛行三鈷杵という名の寺宝として、高野山に今も伝わっている。

 大師堂には、弘法大師像が中央に祀られ、愛染明王像、不動明王像が左右に祀られている。

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弘法大師

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愛染明王

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不動明王

 どれも新しい像だが、弘法大師像の表情が、威厳を感じさせるいいお顔付だった。

 本堂前には、七福神の手から浄水が流れ出る洗心場がある。

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洗心場

 本堂は、新しいものだが、堂々とした建物である。

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本堂

 八浄寺は、応永年間(1394~1427年)に、開基心了法師が御本尊阿弥陀如来像を造立して安置したのが始まりという。最初は浄満寺と呼ばれていたようだ。延宝年間(1673~1681年)に盛奝上人が、円融山浄満寺を中興した。その後、八幡神社別当寺の平松山八幡寺と合併して、蓮台山八浄寺と改称された。

 本堂に上がり、左手に行くと、高さ2メートルの大黒天の木像がある。

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大黒天像

 大黒天の木像としては、日本最大級らしい。この派手な大黒天像の背後に厨子があり、そこに秘仏の大黒天像が祀られている。

 大黒天は、ヒンドゥー教の破壊と創造の神、シヴァ神のことで、密教に取り入れられ、仏法の守護神の一柱となった。日本に渡って大国主神と習合された。

 昔は漫画のキャラクターのように描かれる七福神に関心を持たなかったが、それぞれの神様の由来を知ると、何だか興味深くなってきた。特にこんな福々しい大黒天が、元はインドの破壊と創造の神だったというのが面白い。

 長年生き続けると、人生のつらい裏面も見えてくるが、結局幸福もそれと同じところから生じているのが分かって来る。

 大黒天のにこやかな顔を見ていると、清濁併せ呑んで自足する人生の達人を見るかのように感じる。