天正三年(1575年)に建てられた金山寺の本堂は、国指定重要文化財であったが、平成24年12月24日に発生した火災により焼失した。
この時に、秘仏だった御本尊千手観音像と岡山県指定重要文化財だった木造阿弥陀如来像も焼失してしまった。
貴重な文化財が、一夜にして灰燼に帰したのは残念至極である。
本堂が建っていた場所には、現在仮本堂が建っている。仮本堂の真北の山上に、三重塔が見える。
この寺院の中枢があそこにあるように感じる。
仮本堂の周囲には、かつて建っていた本堂の礎石が残されている。
また、本堂前には、かつて鐘楼が建っていたと思われる基壇があった。
木造建造物は火災に弱い。これだけ文化財保護の考えが進んだ現代でも、仕方がない事だが、毎年のように災害や火災で全国のどこかの文化財に損害が及んでいる。
仮本堂内には、須弥壇が置かれ、仮本尊の千手観世音像が祀られている。
ささやかな須弥壇だが、真の仏性は各人の心の中にあって、彫られた仏像はあくまでもその象徴に過ぎないという仏教の考え方からすれば、ささやかでも構わないように思える。
現在金山寺は、本堂の再建に先立って、ご本尊の千手観音像を再造立することを目指している。
用材として、護摩堂前にある樹齢200年の檜を使い、平安時代から伝わる立木工法により、高さ約7メートルの大千手観音を造立するそうだ。
東北地方で立木観音の造立経験のある新井田仏師に制作を依頼し、数年後の完成を予定している。
新しく御本尊と本堂が再建される日を楽しみにしている。
さて、本堂跡の真北には、寺院の鎮守の山王権現が祀られている。
こちらの方は、平成24年の火災の際、類焼を免れたようだ。
いつの時代に建てられた祠かは分らぬが、天正以降のものだろう。
山王権現は、比叡山の地主神であるが、その使いは何故か猿とされている。ここにも口を開けて笑う猿の石像が置かれている。
仏教の教えを弘めるために、寺院や仏像はあった方が良いが、この世界の現象を実体のない空とする仏教の教えからすれば、寺院が焼失することもまた仏の世界の一部である。
焼失して礎石だけ残る本堂の跡地に立って、「般若心経」が説くところの、不生不滅、不増不減を観想してみた。