和田山西仙寺

 兵庫県西脇市西田町にある和田山西仙寺も、法道仙人が白雉二年(651年)に開基したと伝わる寺院である。法道仙人が、堂塔に仏舎利を安置して、開創したらしい。

 現在は真言宗の寺院となっている。

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西仙寺

 天平勝宝元年(749年)に、播磨国を巡遊中だった行基菩薩が、当寺に立ち寄り、仏舎利から発せられる光明に感嘆し、手ずから十一面千手観音像を刻んで据え付けたという。

 この仏像は、現在秘仏となっている。

 案内板によれば、永正五年(1508年)に本堂宮殿から珠のような汗が流れているのを見た住職が、宮殿を開くと、ご本尊の腕が抜け落ちていたという。腕を修復すると、たちまち汗は止んだそうだ。

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西仙寺案内板

 境内に入ると、正面に山門がある。山門には、持国天毘沙門天の像が安置されている。なかなか古そうな仏像である。一木造で、室町時代頃の制作らしい。

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山門

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毘沙門天

 山門には、四国遍路などでも使用される金剛杖が立てかけられていた。

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金剛杖

 この金剛杖には、西仙寺の焼き印が入っている。西仙寺は、真言宗の播磨四国第一番札所でもある。札所を巡るごとに、各寺院の焼き印を押してもらうのだろう。

 金剛杖は、弘法大師空海の化身と思って大切に扱わなければならないものである。私も、いつか四国八十八ヶ所霊場を歩き遍路するのが夢だが、金剛杖を突いて歩く日はいつ来るのだろうか。

 山門を潜って歩くと、すぐ左手に、真言宗寺院の定番のミニ八十八ヶ所霊場巡りが出来る、四国へんろみちがある。

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四国へんろみち

 さて、西仙寺は、南北朝時代に至って、赤松家の武将赤松則祐の手厚い保護を受ける。則祐は、則祐律師とも呼ばれ、臨済宗に帰依した禅僧でもある。いつ西仙寺が真言宗の寺院になったか分らないが、西仙寺の堂宇を大整備し、応永三十四年(1427年)に当山で入寂した赤松氏出身の良円上人は、東寺の三宝の一人賢宝阿闍梨の弟子であったことから、15世紀前半には真言宗の寺院になっていたのだろう。

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鐘楼

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承応四年(1655年)の梵鐘

 本堂への参道の途中に建つ鐘楼には、三鈷杵が象られた梵鐘がかかっている。この梵鐘には、承応四年(1655年)に、地元の僧侶が銘文を撰したことが記されている。
 本堂は、大永三年(1523年)に建造されたと伝えられる。

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本堂と水吹き銀杏

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 本堂は、兵庫県指定文化財で、天和三年(1683年)と明和五年(1768年)に修理を受けている。

 永禄元年(1558年)に、西仙寺は三木の別所氏の攻撃を受ける。この時、あわや本堂も焼失するかと思われたが、本堂前の銀杏が水を吹いて、本堂の延焼を食い止めたという。

 それ以降、この銀杏は、水吹きの銀杏と呼ばれている。

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本堂

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水吹きの銀杏

 本堂は、正面五間の重量感ある宝形造である。堂々とした建物だ。江戸時代の修復の痕がなければ、国指定重要文化財になっていたであろう。

 本堂の右手には、本堂と同時期の大永年間に建立されたと思しき熊野権現社が建っている。

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熊野権現

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 熊野権現社は、室町期の特徴を持つ茅葺流造の社殿である。兵庫県指定文化財となっている。

 熊野権現社のすぐ脇に、歴代住職の墓と思われる石造五輪塔が林立しているが、その内の一つは、応永三十四年(1427年)に入寂した西仙寺中興の祖・良円上人の墓である。

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石造五輪塔

 この石造五輪塔は、西脇市指定文化財である。

 墓石群の中に、文禄二年(1593年)に築造された、石造釈迦三尊板碑がある。

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石造釈迦三尊板碑

 板碑の上部の円に囲まれたところに、釈迦三尊の種子が彫られている。この板碑も西脇市指定文化財である。

 西脇市で私が訪れた荘厳寺、西林寺、西仙寺は、いずれも真言宗の寺院であった。どれも法道仙人が白雉年間に開いたとされる寺である。この播州の奥地に、中世末期に密教文化が根付いたのが何故か、興味深いところだ。