鬼の釜から北上するとすぐに鬼城山ビジターセンターがある。
鬼城山上には、古代山城である鬼ノ城(きのじょう)がある。
鬼ノ城は、私が史跡巡りで訪れた9番目の日本100名城である。続日本100名城を足した200名城としては、15番目に訪れた城である。日本200名城を基準にすれば、日本全国史跡巡りの7.5%に達したわけだ。

鬼城山は、標高約400メートルの山だが、すり鉢を伏せたような山容で、山頂付近はなだらかな斜面になっている。鬼城山の8~9合目にかけて、土塁や石垣で囲まれた鬼ノ城の遺構が残されている。
8~9合目以下は急斜面になっていて、古代山城を築くのに格好の山容であった。
しかも城の南側に低い丘陵しかないため、遠方まで見渡すことが出来た。



鬼城山ビジターセンターに展示された航空写真や鬼ノ城の模型を見ると、鬼城山の山頂周囲を鉢巻のように囲んだ鬼ノ城の全貌がよく分かる。
鬼ノ城は、昔から大吉備津彦命が退治した鬼である温羅(うら)の居城と言われてきたが、昭和46年に鬼ノ城から列石や水門が見つかり、古代に築かれた山城であることが判明した。

昭和53年には、山を囲む全長約2.8キロメートルに及ぶ土塁や石垣や、城門推定地、第一水門が確認されるなど、山城としての全体像が浮かび上がった。
昭和61年には国指定史跡になった。平成元年に総社市が鬼ノ城を公有化し、西門を復元し、角楼や城壁の整備を進め、往時の姿の一部を蘇らせた。

鬼城山ビジターセンターまでは、麓から舗装路があり、ビジターセンター前には広い駐車場がある。
鬼城山ビジターセンターの場所は、鬼ノ城の遺構の近くにある。そこから歩くとすぐに遺構に達することが出来る。
鬼ノ城の土塁や石塁に沿って遊歩道が整備されている。遊歩道の標高差もほとんどないので、この古代山城跡を割と気軽に散策することが出来る。
古代山城とは、7世紀後半に西日本各地に築かれた防衛施設である。


西暦660年、日本と同盟関係にあった朝鮮半島南西部の国、百済(くだら)は、唐・新羅(しらぎ)連合軍の攻撃により滅亡した。
百済王族の鬼室福信は、百済復興を図り、百済残党は朝鮮半島で唐・新羅連合軍に戦いを挑んだ。そして日本にも援軍を要請した。
西暦663年(天智天皇二年)、日本軍の援軍と百済残存軍は白村江(はくすきのえ)で唐・新羅連合軍と海戦を行ったが大敗した。

日本の水軍は、日本への亡命を望んだ百済遺民を乗せて、這う這うの体で日本に戻った。
天智天皇率いる朝廷は、敗戦後、唐・新羅連合軍が日本に攻撃をしかけてくることに脅威を感じた。
地図を見ると、朝鮮半島は、日本列島の喉元に突き付けられた刃のようにも見える。
日本の歴史を俯瞰すると、朝鮮半島の南端まで日本に敵対的な勢力の影響が及ぶと、日本は必ず軍事的な反応を起こしてきた。これは民族的自衛本能に近い。

百済が滅亡し、朝鮮半島が日本に敵対的な新羅により統一された時がそうである。
清国の軍が朝鮮半島に進出した時もそうである。
朝鮮半島がロシアの影響下に置かれそうになった時も、日本は行動を起こした。
朝鮮戦争で北朝鮮軍が釜山に迫った時、日本は警察予備隊(後の自衛隊)を持った。
将来、北朝鮮により朝鮮半島が統一された時に、日本人がいかに脅威を感じるか、容易に想像することが出来る。そうなったら、いかに平和主義を標榜していても、日本は必ず何らかの行動を起こすだろう。
我が国の歴史を俯瞰すれば、必ずそうなってきたからである。

地政学的に言えば、朝鮮半島は日本列島の喉元に突き付けられた刃である。半島南部に日本に敵対的な勢力を成立せしめないことは、有史以来の日本の不変の外交方針である。
白村江の戦いで大敗した後の日本も、唐・新羅連合軍により日本本土が攻撃される脅威を覚えた。
そのため、上の地図のように、北九州と瀬戸内海沿岸、生駒山地に山城を築いた。
「日本書紀」には、天智天皇四年(665年)から天智天皇六年(667年)にかけて、各地に山城を築いたことが書かれている。これを朝鮮式山城という。
天智天皇六年(667年)には、朝廷は大和から近江京に遷都した。これも外国からの脅威に備えてのことだろう。
しかし、西日本各地には、文献に載っていない古代山城も多数ある。これを神籠石(こうごいし)系山城という。鬼ノ城も神籠石系山城である。
神籠石系山城の築城年代は分からないが、朝鮮式山城と同時期に築かれたものと思われる。

遊歩道には、7世紀頃の吉備の海岸線の図が掲示してあった。今の児島半島は島であった。
これを見ると、築城当時の鬼ノ城が、今よりも海に近く、敵船団の姿を見渡すことが出来る位置にあったことが分かる。
さて、遊歩道を暫く登ると展望デッキがある。そこから、鬼ノ城の西門と角楼(かくろう)を眺めることが出来る。



鬼ノ城西門と角櫓は、平成になって復元されたものである。
次回は、西門と角楼を紹介する。