二村神社の参拝を終え、次は丹波篠山市味間奥にある天台宗の寺院、安泰山大國寺を訪れた。
私が大國寺を訪れた時、雨が降り始めた。前回の丹波の史跡巡りでも雨に見舞われた。丹波は俄雨が多いようだ。
この寺は、国指定重要文化財の本堂と仏像を有している。800円で本堂の内部と仏像を拝観出来るが、私が訪れた時は丁度住職が本堂で読経中であった。
住職の読経が終わるまで、茶処に座って雨宿りをした。それでも手持無沙汰なので、境内にある祠などを参拝した。
大國寺は、大化年間(645~650年)に、空鉢仙人が国家安泰を祈願して、自作の薬師如来像を安置して開創したと伝えられている。
空鉢仙人は、空鉢を宙に飛ばしたと伝えられる法道仙人の別名である。
大國寺の寺名は、今も境内に祭られている大国主命から来ている。
元々大国主命を祀る神社があって、そこに法道仙人が寺を建てたのかも知れない。
また、池の中に祀られている弁財天社の中には、弁財天の石像がある。
八臂の弁財天石像だ。
大國寺は、天暦年間(947~956年)に兵火で焼失したが、正和年間(1312~1317年)に花園天皇の帰依により再興されたという。安泰山大國寺の寺号は、この時に与えられたそうだ。
境内には天満宮があり、その中に風化してとても古そうな木像があった。後で住職から聞くと、10世紀に作られた天神様の像であるらしい。この寺で最も古いものだ。
10世紀作ということは、天暦年間の兵火の後に作られたものか、その前からあったものなのか。いずれにしろ、よくも残っているものだ。
正和年間に再興された際に、本堂も建てられたのだろう。今ある本堂は、室町時代初期に建てられたもので、国指定重要文化財となっている。
本堂は、唐様(禅宗様)と和様を折衷させたもので、14世紀初期の特色を残している。
丹波の木造建築物の中でも、有数の古さを誇る建物だろう。
さて、住職が読経を終えて立ち上がったので、住職に「本堂の見学をしたいのですが」と声をかけた。
住職の案内で堂内に入り、お寺の由来や仏像の由来などの説明を聴いた。
住職は、関西弁でざっくばらんにお話をされる方で、なかなか愉快であった。
最初は本堂外陣でお話を伺ったが、途中で内陣の中に招じ入れて下さった。
内陣は、上の写真の格子戸の中のことで、国指定重要文化財の5体の仏像を間近で拝観することが出来た。
御本尊とされる中央の坐像は、11世紀の作である。法道仙人が薬師如来像を自作して安置したという伝説があるため、御本尊は薬師如来ということになっている。
御本尊の周りには、薬師如来の守護神である十二神将像があるが、この像が薬師如来として扱われている証である。
手に薬師如来が持つ薬壷をお持ちだが、いかにも後から作ったものを手の近くに置いているという塩梅だった。
写真では隠れて見えないが、実は御本尊は宝冠を被っている。宝冠を被った姿と手に結んだ印からして、この像はどう見ても胎蔵界大日如来像である。
そのため文化財としては、大日如来坐像として登録されている。この大日如来坐像が出来てから、法道仙人が薬師如来像を作って安置したという伝説と整合させるため、この像を薬師如来像ということにしたのだろう。
御本尊に向かって右隣りには、同じく胎蔵界大日如来坐像が祀られている。12世紀の作であるらしい。
御本尊に向かって左には阿弥陀如来坐像がある。また向かって右端には持国天立像、左端には増長天立像が立つ。
本堂に祀られる5体の仏像は、どれも平安時代の作だが、花園天皇による大國寺再興の前からある仏像ということになる。
住職もこの地は湿気が多いとおっしゃっていたが、そんな中で金箔も剥落せずにこれらの像が残っているのは素晴らしいことだ。
さて、境内には大黒天を祀った大黒天堂がある。
今大黒天堂が建っている場所は、かつて樹齢600年の柴樅の大木があったという。古くから御神木として崇められていたが、大正の初めに落雷で幹が空洞化し、昭和25年のジェーン台風で木が半分に折れてしまった。
その時、幹の中から大黒天像が現れたり(今も厨子の中に祀っているという)、落ちた木の皮を持ち帰った人が急死したり大けがをしたりと、不思議なことが続いた。
昭和41年7月1日に行われた本堂の解体修理落慶法要では、幹から白蛇が現れたという。
しかし年月と共に残った幹は朽ちていき、昭和60年の台風で、完全に朽ち果ててしまった。
だが霊木の力を無にするのももったいないので、その跡地に寺号の大國寺にゆかりのある大黒天堂を建てたそうだ。
ところで、私が参拝していると、髪を染めて奇抜な恰好をした多くの若者たちが境内に現れた。
何だろうと思って見ていると、どうやらコスプレをした人たちのようだ。後で調べると、大國寺はコスプレイヤーの境内での撮影に協力しているようだった。住職も新しい事がお好きなようだ。
大黒天堂の参拝を終えると、丁度雨が上がり始めた。次なる目的地に行く事にした。