由加山蓮台寺 由加神社本宮 その6

 客殿の先には、八十八段の石段があり、その上に蓮台寺奥の院権現堂がある。

奥の院権現堂の参道

 石段の手前には、鐘楼堂があり、巨大な梵鐘がかかっている。

鐘楼堂

鐘楼堂の龍の彫刻

梵鐘

 新型コロナウイルス感染防止のため、鐘楼堂内への立ち入りは出来なかった。

 さて、鐘楼堂を過ぎると、明治時代になって築かれた八十八段の石段がある。

八十八段の石段

 石段の上の権現堂には、瑜伽大権現不動明王が祀られている。

 この石段を踏みしめながら登り始めた時、突然世界の底が抜けるような感覚に襲われた。何というか、石段を踏む自分の足元がそのまま宇宙の果てに繋がっているような感覚。自分の周囲の世界が、コンピューターが作り出した実体のない幻影のように思えて、その底にある真の実在が一瞬見えたような感覚。禅の見性体験のようなものだろうか。

 だがこんな感覚は一瞬で、すぐに消えてしまった。ただの思い過ごしだったのかも知れない。思わず権現堂を見上げる。

権現堂

 私が感じた感覚は、仏教でいう悟りとは違うだろう。仏教では、悟りを開いて自己の存在への執着がなくなれば、自分や世界の根底にある智慧が表面に現れてくるという。「般若波羅蜜多心経」の般若とは、仏の智慧のことを指す。世界を成立させている智慧である。そういうものは見えてこなかった。

 妄想だったにしても、不思議な感覚だった。私はこの奥の院権現堂に登る石段を、終生忘れることがないだろう。

 権現堂と客殿は、八十八回廊と呼ばれる屋根付き階段でつながっている。客殿からなら、回廊を伝って権現堂の中に入り参拝できる。

客殿から権現堂までの八十八回廊

客殿から登る屋根付き階段

 権現堂は、明治時代になって建てられた。神仏分離令で、瑜伽大権現を祀っていた蓮台寺本殿が由加神社本宮として独立してしまったので、蓮台寺として新たに瑜伽大権現を祀る建物として建てられた。

 瑜伽大権現は、現在蓮台寺総本殿にも祀られている。権現堂はその奥の院という位置づけである。

権現堂内部

お前立の不動明像立像

 瑜伽大権現を祀る本殿の前に、お前立の不動明王が祀られている。不動明王立像の両脇には、小さいが蔵王権現の像が祀られている。

 不動明王の隣には、蓮台寺中興の増吽僧正の座像が祀られている。

増吽僧正

 増吽僧正は、室町時代に讃岐に生まれ、幼い時から神童の誉高く、「弘法大師の再来」とまで言われた真言僧である。

 高野山で修行して、更に全国の諸山を経めぐって真言の奥義を究めた。後小松天皇に重用され、宮中でも加持祈祷を行ったが、後半生は地位を捨てて各地の寺院の復興に尽力したという。

 由加山蓮台寺も増吽僧正によって復興された寺院の一つだ。

 真言宗は、秘密仏教である故に、出家して僧侶になり、阿闍梨の指導を受けながら修行しなければ、教えの奥義に入ることが出来ない。

 私は出家してまで教えの深みに入ろうとは思わないが、どこかに教えに対する憧れがある。

 四国八十八ヶ所霊場もそうだが、各地の寺院は、在家信徒のためには心の支えになるものである。