兵庫県三木市吉川町前田にある天津神社は、国指定重要文化財の華麗な本殿を有する。
祭神は、天穂日(あめのほひ)命、天津彦根(あまつひこね)命、活津彦根(いくつひこね)命、天忍穂耳(あめのおしほみみ)命、熊野久須日(くまのくすび)命の五柱で、本地仏として薬師、観音、釈迦、阿弥陀如来を祀っているという。当初は遍照院という神宮寺があったという。
この五神は、天照大御神と須佐之男命とが、高天原で誓約(うけい)を行った時、天照大御神の玉を須佐之男命が噛み砕いて吹いた時に出来た神々である。天照大御神の物実(ものざね)から生まれたので、須佐之男命が吹いた玉の破片から出来た神々だが、天照大御神の御子とされる。
この内の、天忍穂耳命の子孫が今の皇室である。
この神社の本殿は、延徳四年(1492年)に造営されたことが記録されている。
本殿は、春日造りの檜皮葺の建物で、正面一間、側面二間である。
この本殿は、延徳四年に村人達が建てたと伝えられている。平成15年に、当時の彩色が復元され、屋根も修復された。
欄間、蟇股、手挟みの彫刻と彩色は、華麗であるが悪趣味ではなく、ベースの朱色と好く調和している。
脇障子の彫刻は、武人と女人の彫刻である。細かい所までよく彫られている。
このような華麗な彩色の本殿だが、背面の黒板が、全体を引き締める効果を持っているような気がする。
それにしても、こんな見事な本殿を、武士や貴族ではなく、当時の村民が建てたということに、何か貴さを感じる。
さて、天津神社から北東に約700メートルほど行った、三木市吉川町冨岡に、聖天(歓喜天)を祀る稲荷神社がある。
聖天宮参道と彫られた石碑を目印に参道に入るが、それ以降目印がなく、途中で迷いそうになる。参道入口を約50メートル歩いてから左に入り、民家と物置の間の細い道を上がれば、神社に至る。
この神社の本殿は、天文十五年(1546年)に建てられた。国指定重要文化財である。一間社隅木入り春日造り板葺きで、極彩色の蟇股や欄間の彫刻が見事であるそうだ。
天津神社の本殿と同系統の本殿であると推察できる。
しかし残念ながら、本殿は覆屋に覆われて拝観することが出来ない。
稲荷神社は、かつては聖天宮と呼ばれていた。聖天は、真言密教でよく秘仏として扱われる、仏教の守護神である。
天津神社にしろ、稲荷神社にしろ、中世には神仏習合の神社として、真言宗との関係が深かったと思われる。
天津神社の本殿は、村民が建てたそうだが、仏教の如来や守護神が、日本の神々と習合されて、村民に信仰されていた中世から近世の信仰の形が、今に残っているとも言える。