岡山県備前市の西の中心が、伊部(いんべ)である。JR伊部駅を中心にして、町が開けている。
中世、近世に備前焼の積出港として栄えたのが、浦伊部という湊町である。浦伊部にある浄光山妙圀寺は、日蓮宗の寺院である。
妙圀寺は、元々は天台宗の寺院で、永長元年(1096年)に創建されたという。
貞治五年(1366年)、京都における日蓮宗の大本山、本圀寺の第五世大円院日伝上人が、西国布教の折に当寺に立ち寄り、寺主の乗蓮と三昼夜に渡る法論をして、寺主を日蓮宗に転宗させたという。
それ以来、妙圀寺は、本圀寺の中国地方における布教の拠点となった。最盛時は末寺、支寺が播磨、備前に広がっていたという。
しかし、天正年間に妙圀寺は戦火で堂宇の大半を失う。
当寺の浦伊部の信徒・来住法悦が諸堂復興を企て、本圀寺第十六世究竟院日禛僧正を招請し、再興を果たした。
その後も妙圀寺は、宇喜多直家や小早川秀秋といった武将の外護を受け、江戸時代に入ると池田光政から寺領を寄せられた。
本堂には、国指定重要文化財の木像釈迦如来坐像が本尊として祀られている。像には延文三年(1358年)という銘が入っているらしい。ということは、妙圀寺がまだ天台宗の寺院だったころに作られた仏像である。
この坐像は、慶派仏師の大仏師康俊が彫ったと言われている。
今、鐘楼にかかる梵鐘は、文化財として保存されることになった梵鐘に代わって、平成7年に戦後50年を記念して鋳られたものである。
さて、浦伊部から、JR伊部駅前に出る。駅のすぐ東にある備前市立備前焼ミュージアムを訪れる。
ここでは現在、「獅子十六面相」という企画展をしていた。
備前周辺の神社などでは、狛犬として備前焼の獅子を据えているところが多い。そういった神社社頭の備前焼の獅子などを集めて展示していた。
館内は写真撮影禁止だったが、唯一展示室の正面に展示していた文政四年(1821年)作の「恵美須宮獅子阿形」だけが、正面から限定で撮影可だった。
この狛犬は、元々は備前市西片上にある恵美須宮の社頭にあったものだが、今は愛知県陶磁美術館に寄贈されているらしい。愛知県指定文化財である。
備前焼の狛犬は、鬣や尻尾が立派に造形されている。この狛犬も立派であった。側面からの写真を撮れなくて残念だ。
展示を見て、備前焼の獅子の置物が欲しくなった。
この美術館は4階建てで、1,2階が企画展スペース、3階に人間国宝の作品、4階に古備前を展示していた。
4階の古備前コーナーに、時代的には須恵器と古備前の中間に位置する、奈良時代の窯変した須恵器の平瓶が展示してあった。須恵器が備前焼に発展したことを示す器だ。なかなか味わいのある器であった。
1階は観光案内所兼お土産物売り場、2階が備前焼の展示即売会場となっている。
奥の方では、人間国宝の藤原啓や息子の藤原雄の作品も展示していた。
伊部駅から北に歩くと、備前焼の窯元のお店が軒を連ねている。外国人観光客数名が買い物袋を提げて、楽しそうに店から出てきた。
私には、陶器を買い集める趣味はないが、もし自由に使えるお金が有り余るほどあったら、こういう町並みを散策して、「これ」と思ったもの1~2点を選んで買うのが楽しいだろうと想像した。
今、備前市や備前商工会議所、備前陶友会などは、若い女性が備前焼の陶工になることを目指す物語を描いた、「ハルカの陶」という漫画の実写映画を製作中である。
映画をきっかけに、備前焼に興味を持つ人が増えたらいいのにと、知らず知らず伊部の町を応援する気分になっていた。