天龍山正福寺 

 湯村温泉の町並みの西端の、石段を上がったところにあるのが、天台宗の寺院、天龍山正福寺である。

    なお、今回の記事で但馬の史跡巡りは終了である。令和2年9月に始まって、約3年で「兵庫県の歴史散歩」下巻に載る但馬の史跡を踏破した。

 播磨、備前に次ぎ、史跡巡りを完了した3つ目の国になる。但馬を攻略したことで、隣国の丹後への道が開けた。

正福寺への石段

 さて、正福寺の石段を登った先に、鐘楼門がある。長年湯村温泉の町に時を知らせ続けた鐘楼であろう。

鐘楼門

 鐘楼門の手前に、慶安四年(1651年)に発生した慶安の変由井正雪の乱)に関与した慶安の変四天王の一人、熊谷直義が両親の供養のために建てた供養塔がある。

熊谷直義が両親のために建てた供養塔

 直義は、慶安の変の失敗の後、この地に流浪し、慶安四年(1691年)に病没した。

 正福寺には、直義の遺品である薙刀と茶釜が遺されている。

 鐘楼門を潜って境内に入ると、正面に兵庫県天然記念物の正福寺桜がある。

正福寺桜

 正福寺桜は、キンキマメザクラと山桜の交配で生まれた種で、花弁が50~100枚の八重咲で、一つの花に雌蕊が1~4個付く珍しい桜である。桜咲く季節に来て見たかった。

 正福寺は、慈覚大師円仁が湯村温泉を開いた時に開基した寺とされている。

本堂

 貞享二年(1684年)の火事で記録が焼失したので、詳細なことは分かっていない。

 元禄元年(1688年)に病魔降伏不動明王遷座させ、元禄三年(1690年)に中興した。

 本堂正面には、阿弥陀如来立像が祀られ、その両脇に伝教大師最澄像と慈覚大師円仁像が祀られている。

阿弥陀如来立像

 阿弥陀如来立像に向かって左側に、黒光りする厨子がある。あの中に、病魔降伏不動明王が祀られているのだろう。

不動明王立像の祀られた厨子

 不動明王立像は、兵庫県指定文化財である。この像は、21年毎に開帳される。次の開帳は、2025年である。

 正福寺境内には、密教寺院らしく、様々なお堂やお社がある。

 観音堂には、優しそうな観音菩薩像が安置されている。

観音堂

観音菩薩

 境内の天満宮には、天神菅原道真公の神像が祀られている。

天満宮

天満宮本殿

天神像

 天神像の前に聖観音菩薩立像が立っている。

 最近読んだ「一遍聖絵」の中で、一遍上人天満神社観音菩薩垂迹と呼んでいた。

 中世日本の神仏のパンテオンは、混淆していて面白い。

 境内に夢千代地蔵という地蔵尊が祀られている。

夢千代地蔵

 湯村温泉を舞台としたNHKドラマ「夢千代日記」に出てくる主人公夢千代は、作中で相談者の話を聞いてやるだけで、助けることは出来ていない。ただ苦しみ悩む相談者の話を全身全霊で聞いて、最後に「祈りましょう」というだけであるという。

 だが、悩みを聞いてもらった相談者は、幾分か心が軽くなって、救われた気になる。

 人々の悩みを受け止める地蔵菩薩のような夢千代に因んで、正福寺境内に建てられたのが、夢千代地蔵である。
 私は、ドラマの夢千代のような優しさを持つことが出来ない。つい人に辛辣なことを言ってしまう時がある。

 だが、それぞれ短い命しかもっていない人間同士、何かの縁で近づいた時は、短い間でもお互い温かく接した方が、いいような気がする。