小森温泉

 円城寺から北上し、岡山県加賀郡吉備中央町小森にある小森温泉を訪れた。

 小森温泉は、享保十七年(1732年)に、岡山藩主池田継政が、岡山藩領内唯一の湯治場として開発に着手した温泉である。

小森温泉の湯元入口

 この工事は、岡山藩直営の大普請として、延べ1万人の人夫をつぎ込まれた。

 広さ約3アールの土地を掘って、四方を四段の石垣で囲み、中央に縦約4.5メートル、横約5.4メートル、深さ約1.5メートルの湯壺と、その外に直径約1.5メートルの湯壺を置いた湯屋を設置した。

小森温泉湯壺

 岡山藩が工事した湯壺は今も残っているが、もはやここからは温泉は湧出していない。

 湯壺の底には枯葉が堆積している。溜まっている水に手を浸してみると、冷たかった。

 湯壺の周囲には、枯れた蔓に覆われた石垣が残っている。

湯壺の周囲の石垣

 岡山藩が築いた石垣である。

 小森温泉は、当時は岡山藩領内唯一の湯治場として繁盛したようだが、湯元に清水が混入し、湯の温度が低下したことなどから、数年を経ずしてさびれていったようだ。

 戦後、地元民による温泉復興運動が興り、昭和28~29年にかけて、湯元のボーリングを行った結果、再び良質多量の温泉の湧出を見て、小森温泉は再興された。

 小森温泉には、複数の旅館らしきものが建っているが、どれも閉館しているように見受けられた。

閉館した温泉旅館

 戦後の温泉ブームも去って、再び衰退したようだ。

 集落内に唯一営業している温泉旅館があった。どうやら小森温泉で営業しているのは、この一店舗のみらしい。

営業中の温泉旅館

 ここは宿泊することも出来るが、日帰りで湯に浸かることも出来る。私も湯に浸かりたかったが、時間の都合上遠慮した。

 さて、小森温泉の奥にある経ブロ山という丘の上に、薬師堂が建っている。

 その傍に、古い宝篋印塔が建っている。

経ブロ山の薬師堂

小森薬師堂宝篋印塔

 宝篋印塔は、様式からし南北朝期のものだろう。

 伝説では、一羽の鷺がこの地の泉に浸かって、傷を癒してから飛び立つのが目撃されたことから、小森温泉が発見されたという。

 薬師堂に祀られる薬師如来は、東方瑠璃光世界の教主で、医療で人の病を治する仏様である。

 この地に薬師堂があるということは、古くから治病のために人が集まる霊泉がここにあったということを示している。

 いずれにしろ、温泉が豊富にある我が国に生まれた以上、温泉を楽しんで生活するべきではないかと思う。