相楽園 前編

 神戸市外国人墓地の見学を終えると、再度山ドライブウェーを使って再び市街地に下りて来た。

 次に訪れたのは、神戸市中央区中山手通5丁目にある和風庭園、相楽園である。

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相楽園の塀

 相楽園は、神戸市長小寺謙吉の父小寺泰次郎が、明治18年に私邸として建設に着手し、明治末年に完成した旧小寺邸の跡地である。

 昭和16年に小寺家から神戸市に土地建物が移譲され、同年11月から相楽園という名称で一般公開されるようになった。

 相楽園の敷地は広大で、周囲を高い瓦葺の塀が囲んでいる。

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相楽園の正門

 相楽園には正門から入るが、正門の前に植えてある梅がほころび始めていた。

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正門前の梅

 ああ、春がやってきた。今年もこの季節が巡ってきたのだ。

 相楽園には、昔は小寺邸の豪壮な本邸や附属建物があったが、神戸大空襲により焼けてしまった。

 今の相楽園には、戦災を生き残った旧小寺家厩舎や、戦後になって移築された旧ハッサム住宅、船屋形という3つの国指定重要文化財の建造物がある。

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相楽園案内図

 正門を入りと、右手に蘇鉄園があり、左手に松が植わった日本庭園がある。道の正面には旧ハッサム住宅が見える。

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相楽園の景色

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蘇鉄園

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日本庭園

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ハッサム住宅

 旧ハッサム住宅については、次回の記事で紹介する。

 ところで相楽園を造った小寺泰次郎は、幕末には三田藩士だった。

 事業の才能に恵まれていて、廃藩置県後は、神戸にて不動産業、金融業を展開し、神戸の長者番付の筆頭に躍り出た人物だったらしい。県会議員にもなったそうだ。

 正門から入って坂を上がっていくと、左手に大樟が見えてくる。

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大樟

 大樟は、永禄十一年(1568年)ころに荒木村重が花隈城を築城した際、城の鬼門の方向に植えたものだと伝わっている。

 伝承通りなら、小寺泰次郎がこの土地を購入する遥か前からここに生きている樟ということになる。

 大楠の南側の門を潜ると、広い芝生の広場がある。

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芝生広場に通ずる門

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芝生広場

 日本庭園の相楽園の中に、こういう洋風の空間もあるわけだ。

 芝生広場の西側には、大きな池がある。相楽園は、廻遊式林泉園だが、その中心になるのがこの池である。

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 池に臨む2つの建物がある。一つは昭和38年に建築された茶室浣心亭である。

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浣心亭

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 もう一つは、国指定重要文化財の船屋形である。

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船屋形

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 船屋形は、姫路藩主が河川での遊覧に使っていた川御座船の屋形部分を移築したものである。

 建造されたのは、天和二年(1682年)から宝永元年(1704年)ころにかけてとされている。本多家が姫路藩主だった時代のものだそうだ。

 姫路藩の川御座船は、幕末まで飾磨港に停泊していたが、明治初年に高砂に移されて屋形部分だけ陸揚げされ、船框から下を継ぎ足され、陸上で茶室として使われるようになった。

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船屋形

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 その後、昭和16年に、今の神戸市垂水区舞子にあった前所有者の牛尾吉朗の邸宅に移築された。
 昭和53年に牛尾吉朗から神戸市に寄贈され、相楽園に移築された。

 木材は内外とも全て漆塗りで、春慶塗と黒漆塗に塗り分けられ、建具の桟は黒漆塗、その間は金箔押しとなっている。

 長押や垂木には金箔を施した飾り金具が打たれている。

 屋根は檜皮葺だろうか。非常に華麗な建物である。

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船屋形の南面

 船屋形の南面は、日光から守るために、板で覆われている。

 しかし、この屋形を上に載せた船は、なかなかの大きさだったのではないか。

 江戸時代の飾磨港に、この屋形を載せた遊覧船が浮かんでいるところを想像した。

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船屋形側から眺めた池

 庭園は、それだけで完結した一つの世界になっていると思う。自足した世界の中にいると、居心地よく感じる。

 相楽園は、神戸市を代表する庭園だが、神戸市の観光地の中ではメジャーではない。私が訪れた時も、観光客はまばらにしかいなかった。

 都会の中の静かな庭園を歩いて、居心地のいい時間を過ごすことが出来た。