岡山市を訪れて、その前を通るたびに気になっていた建物がある。岡山城西手櫓のすぐ脇にある、「禁酒会館」という名の古い建物がそれである。
地名で言うと、岡山市北区丸の内1丁目にある。
一体この建物は何なのだと思っていたが、調べてみると、岡山の禁酒活動家たちが、活動の拠点とするために大正12年(1923年)に建てたものであるらしい。築100年近い建物だ。
ドイツ風の木造三階建モルタル造りで、スレート葺きの屋根が3階で腰折れ風に処理されている。
昭和20年の岡山空襲で燃えることなく奇跡的に生き残り、現在も使用されている。平成14年には、国登録有形文化財となった。
喫茶店の入口横を見ると、登録有形文化財のプレートだけでなく、NPO法人岡山県断酒新生会の酒害相談所の看板が掛かっていた。現在も断酒活動の拠点として使われているようだ。
私は自ら好んで酒を飲むことはないので、ここの厄介になることはなさそうだ。
この建物は、「岡山県の歴史散歩」には載っていないが、番外編としてここに紹介した。
林原美術館のある場所は、岡山藩主が家臣を引見した対面所の跡地である。現在建っている長屋門は、岡山藩の支藩だった生坂藩の岡山屋敷の門で、明治末期に移築したものである。
林原美術館は、株式会社林原の三代目社長林原一郎が、戦後収集した刀剣類や東洋古美術を展示するために、昭和39年に開館した美術館である。
林原美術館の本館は、フランスの建築家ル・コルビジェに師事し、帰国後モダニズム建築の旗手として、戦後日本の建築界をリードした前川國男の作品である。
林原美術館には、国宝の太刀銘吉房、太刀銘備前国長船住左近将監長光造、短刀無銘正宗などの刀剣類や武具、蒔絵などの古美術品が収蔵されている。
国宝に指定されている三振の刀は展示しておらず、拝観出来なかった。
当日は、「匠の技 百花繚乱」というテーマの特別展が開催されていた。
展示品は、写真撮影禁止だったので、写真で展示品を紹介することは出来ない。
展示品の中で最も記憶に残っているのは、池田光政が幼少のころ、持って遊んでいたとされる短刀のおもちゃであった。
木で出来た小さな刀で、貼られていた銀箔も剥げていたが、後の名君池田光政が、子供のころ御殿の中で振り回して遊んでいたものが、400年を経て残っているというのが面白い。
林原美術館には、池田家ゆかりの品々も多数収蔵されている。池田家の宗家は平成になって断絶してしまったが、岡山の文化を形成した家として、長く記憶されることだろう。