本堂前の石畳を東に進むと、僧侶達の生活空間である庫裏や方丈がある。
私が曹源寺を訪れたのは、もうすぐ日暮れがやってくる時間帯だった。夕飯の支度中なのか、庫裏からは味噌汁の香りが漂って来た。
庫裏の前には、「浴室」と書いた木札が下がった建物がある。修復工事中であった。
江戸時代から浴室として使われ続けてきた建物だろう。中を見てみたい。
庫裏には、白人系の禅僧が出入りしている。国際色豊かな禅寺だが、日本の禅文化に憧れて来日した外国出身の僧侶の方が、日本人よりも江戸時代のままの禅寺の生活を残そうと努力するのではないかと思ってしまう。
少し行くと、方丈の玄関があるが、これも簡素な江戸時代のままの佇まいだ。
拝観料を箱に入れて、津田永忠が造った池泉回遊式の庭園を見学する。
池の対岸には、名石を建てた築山があり、こちら側には小さな舟を繋いでいる。
池の奥には、枝垂桜がある。花見の季節には、さぞ美しい姿を見せてくれるだろう。
この池泉式庭園に接するように、方丈の座敷がある。僧侶達にとって、方丈から眺めるこの庭園は、僧院の生活の中の目の娯しみの一つだろう。
方丈には、渡り廊下で接続している奥の間がある。恐らく寺院の住職が居住しているのだろう。
声一つない静かな空間だ。
方丈の脇には、竹垣で囲まれた茶室がある。今は使われることは稀だろうが、江戸時代には藩主がここを訪れ、庭園を眺めながら茶を喫したことであろう。
さて、再び本堂の前に戻り、西を見ると、石畳の向うに経蔵がある。
経蔵の中には、お経を収める回転式の書棚である転輪蔵があり、その前に転輪蔵を発明した中国南北朝時代の居士、傅大士の像が安置してある。
経蔵の背後には、仏足石と印度風の石塔が建っている。
この石塔と傅大士像を見ると、仏教が印度から中国を経て日本に伝わってきたことが実感できる。
経蔵の隣には、開山堂がある。開山の祖師などを祀っているのだろう。
禅寺の生活は簡素で静かなものだろう。ひたすらに坐禅を組み、心を澄み渡らせた時に目に映る風景は、元の風景と同じでも、違って見えるものだろうか。