若宮八幡宮 秋津薬師堂

 三草山から下山して、加東市黒谷にある若宮八幡宮に向かう。八幡宮なので、祭神は第15代応神天皇即ち誉田別命である。

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若宮八幡宮鳥居

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若宮八幡宮随身

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若宮八幡宮拝殿

 若宮八幡宮には、国指定重要文化財の本殿がある。創建年次は明らかではないが、内陣板壁の墨書から、永禄七年(1564年)の再建が確認できるという。

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若宮八幡宮本殿

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 この本殿の特徴は屋根にある。三間社流造というオーソドックスな造りだが、向拝は唐破風となっていて、杮(こけら)葺きの屋根の曲線がまことに美しい。細かい板を屋根に張り付けた職人技に敬意を表したい。平成20年に屋根の葺き替え工事をしたそうだ。技術の継承というものは、大事なものである。

 ここからしばらく東に行くと、加東市秋津という地域に至る。ここにある秋津薬師堂は、私には不思議と忘れがたい建物であった。

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秋津薬師堂

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 秋津薬師堂は、その名の通り薬師如来を祀る建物である。加東市指定文化財のご本尊木彫薬師如来坐像の胎内墨書には、永禄十一年(1568年)の銘がある。永禄十一年と言えば、信長が美濃を制圧した翌年で、信長が商業の活性化のため、尾張、美濃の関所を撤廃した年である。ようやく古ぼけた時代の扉が、革新者信長の手によって、がたがたと開けられようとしていた頃だ。この建物も、そのころに建てられたものだ。

 秋津薬師堂は、室町時代末期の平凡な辻堂なのだが、何故か心惹かれた。

 これ以外にも、室町時代の建物は幾らでも残っているが、大抵は街並みから離れた場所に建っている神社建築や寺院建築ばかりで、秋津薬師堂のように、現代の街並みの中で、現代の民家と並んで建っているというものは珍しい。

 隣に現代の民家が建っているおかげで、この建物が室町時代から時代を経て現代まで伝わってきたことを、より一層実感できるのだ。

 想像すれば、薬師堂の隣に似たような茅葺屋根の民家が立ち並び、室町時代の子供たちが、薬師堂の周囲で遊んでいる姿が目に浮かぶ。

 信長が登場した時代の街の雰囲気が、ここに冷凍保存されているように感じる。

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秋津薬師堂の正面

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秋津薬師堂の茅葺屋根

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秋津薬師堂の内部

 私が訪れたのは年末で、秋津薬師堂は正月の準備を終えて、正面に年神様の依り代となる門松が備え付けられていた。

 神様が植物や樹木に宿るという発想がどこからきたものかは分からないが、日本人にとって樹木は神聖な存在なのだろう。

 脇壇安置の阿弥陀如来像に、宝暦六年(1756年)の銘があるそうだ。その時代に内陣の奥行を一間拡張し、床、天井、柱間に改修を加えたとされている。

 秋津薬師堂は、兵庫県指定文化財である。

 秋津薬師堂の隣には、住吉神社がある。私が訪れた時には、ここも地元の人々によって、正月を迎える飾りつけが行われていた。

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住吉神社

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住吉神社随身

 随身門と拝殿前には、門松が備え付けられていた。

 住吉神社は、元々近くの森村に祀られていたが、元亀年間(1570~1572年)に焼失し、貞享四年(1687年)に当地に遷座したという。既存の宮に合祀されたものと伝えられる。

 随身門と本殿は、加東市指定文化財で、随身門は正保五年(1648年)の建築である。

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住吉神社拝殿

 住吉神社本殿は、元禄時代より前の建築で、優秀な彫刻が施されている。

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住吉神社本殿

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蟇股の彫刻

 住吉神社には、中世の田楽の面影を残す雨乞踊が伝承されている。別名秋津百石踊と呼ばれている。狂言風の問答形式の口上を中心に、古式豊かに踊られるという。この踊りを催すのに、1回につき米百石分の費用がかかることから名づけられたという。兵庫県重要無形民俗文化財に指定されている。

 地元住民が、お互い声を掛け合いながら、住吉神社に正月の飾りを施す様子を見て、地元の文化財を大事にすることが、地元住民を結びつける元になっていることを実感した。

 古くから伝わるものを大事に継承していくことは、人の心を豊かに満たすものと思う。