亀山八幡宮と池田の桟敷の間に、真言宗の寺院、金陵山長勝寺がある。
長勝寺の境内は、石垣の上に建てられた土塀に囲まれている。土塀の漆喰が剥がれて、下の土がむき出しになっている。
これがむしろ古い味を出していていい。
石段を上がると納経所がある。納経所の中では、お寺の子供たちが元気に駆け回り、ご婦人が笑いながら声をかけておられた。子供が元気なのはいいことである。
納経所の鬼瓦を見ると、瓦に梵字の阿字が陽刻されていた。阿字は、本不生という宇宙の哲理を一字で現しているという。
納経所を過ぎると、左手に無量寿殿という建物がある。無量寿は阿弥陀如来の別名である。
ここには、長勝寺の寺宝が収蔵されている。
無量寿殿の前にある賽銭箱が、巾着袋の形をした木の彫刻に嵌め込まれている。巾着袋には、葵の紋が刻まれている。変わった賽銭箱である。
無量寿殿の奥には、国指定重要文化財の3体の木造伝池田八幡本地仏坐像がある。池田八幡は亀山八幡宮のことで、本地仏は池田八幡の祭神八幡大神の本体である阿弥陀如来のことである。
これらの坐像は、平安時代末期の12世紀の作と言われている。中央が如来形、向かって左が菩薩形、向かって右が比丘形である。発心して修業し、覚者となる経過を表している。
この像は、長らく亀山八幡宮の御神体として祀られていたが、明治の神仏分離で神社から撤去されることになり、長勝寺が引き取った。ここにも神仏分離の影響が見て取れる。
左手には、国指定重要文化財の梵鐘がある。
この梵鐘には、鎌倉時代の建治元年(1275年)の銘が刻まれている。
ついこの前に書かれたかのようにはっきりした銘文である。鎌倉時代のものとは思えない。
銘文にもある通り、この梵鐘は元々は瀧水寺のものであった。
梵鐘は、細長く美しい姿をしている。一度鳴らしてみたいものだ。
右手には重要美術品の宝篋印塔がある。
この宝篋印塔も、瀧水寺の旧蔵品である。建武五年(1337年)の銘があるという。隅飾りに梵字が彫られている。
屋内で保管されているためか、細部の意匠まで綺麗に残っている。
無量寿殿から出ると、美しく咲く白梅が目に入った。
思わず、旧暦の新年の空気を大きく吸った。
無量寿殿から石段を上がると、本堂がある。新しい本堂である。
本堂内からは誦経する声が聞こえる。堂内は人で満ちている。どうやら法要をしているらしい。
長勝寺には、900年近く前に作られた亀山八幡宮の御神体を始め、貴重な文化財がある。
はるか昔から今まで続く池田郷の歴史を伝えてくれる寺院である。