兵庫県立コウノトリの郷公園から東に行き、豊岡市法花寺にある酒垂(さかたる)神社を参拝した。
酒樽に音が通じるこの神社の創建は、約1300年前と伝わる。
当時この地を治めていた郡司、物部韓国連久々比(もののべからくにのむらじくくひ)命が、贄田に酒所を構えて醸酒をした砌、造酒神を祭ったのが発祥とされている。
祭神は、杜氏の祖神で酒造司の守護神である、酒弥豆男(さけみずお)命、酒弥豆女(さけみずめ)命で、別名大歳大明神と呼ばれている。
杜氏は、日本酒の醸造を行う職人集団若しくはその統率者を指すが、但馬杜氏の歴史は古く、天正年間(1573~1592年)に遡る。江戸時代には、但馬杜氏は全国に出稼ぎに出ていたという。
酒造の神様を祀る酒垂神社は、特に但馬の酒造業者や酒販業者から尊崇されている。
酒垂神社の本殿は、永享十年(1438年)に建築が始められ、文安元年(1444年)に竣工した、歴史ある建物である。
本殿は、一間社流造、杮葺きであり、今は覆屋に覆われている。
昭和43年からの解体修理で、「大伴清久 小工十二人」と書かれた棟札が見つかった。
創建時の棟梁の名前が分かっており、建築細部技法に当時の様式が残されている建築史上の貴重な遺構として、国指定重要文化財に指定されている。
朱色の柱と梁に、白く塗られた壁が鮮やかである。建てられてから間もなく600年になろうとする建物だが、修理を経て未だに美しさを保っている。
酒垂神社の前には、法花寺会館という建物がある。法花寺集落は、法花寺万歳を伝承する地域である。法花寺会館では、法花寺万歳が演じられる。
万歳とは、正月に家々の座敷や門前で祝いを述べる祝福芸のことで、今日の漫才の起源と言われている。
法花寺の万歳は、江戸時代後期に京都に出奉公していた村民が習い覚えて、帰郷後、農閑期に門付けをしたとされる。
大東亜戦争中に中断したが、昭和24年に復活した。兵庫県下に唯一残る万歳である。
役者は烏帽子に素襖を着て扇子を持った「太夫」と、大黒頭巾に裁着袴に鼓を持つ「才若」、それに三味線ひきが加わる。2人の役者が巧みな掛けあいをみせた後、くだけた余興を演じるそうだ。
日本の神様は笑うことがお好きだが、酒垂神社の祭神も、目の前で演じられる万歳をご覧になって、大笑いをされることだろう。