両山寺のある二上山には、東峰弥山と西峰城山の二つの峰がある。最高峰は城山で標高約689メートルである。両山寺は、弥山の中腹にある。
両山寺の裏には、護法善神を祀る二上神社がある。護法善神とは、仏教の守護神である梵天、帝釈天以下のインド由来の神々の総称であるが、密教が日本に到来してから、日本の神々をも習合した。
密教は、宇宙の全てを法身大日如来の化身とみなす考え方から、あらゆる地域のあらゆる神々をも教えの中に包摂していった。
ここに祀られる護法善神は、インドだけでなく日本の神々も包摂した、仏法の守護神であろう。
二上神社本殿裏には巨岩があった。
二上山を開いたとされる泰澄(たいちょう)法師(越の大徳)は、天武天皇十一年(682年)から神護景雲元年(767年)までを生きた修験道の僧で、加賀の白山を開山し、平泉寺を開創したことで知られている。
僧侶というよりは、役小角のような山岳行者であろう。修験道で信仰される山には、山頂近くに巨岩があるものだが、二上山も元々は修験道が盛んな山だったのだと思われる。
両山寺と二上神社には、毎年8月14日深夜から8月15日未明にかけて行われる、護法祭という奇祭が伝わっている。
建治元年(1275年)、両山寺僧侶定乗が護法善神からの託宣を受けて始まった祭りである。祭りでは法螺貝が吹かれ、修験道の要素が色濃く残っているそうだ。
護法善神の依り代となる護法実(ごほうざね)が、祭りの一週間前から両山寺本坊書院内の護法殿に籠り、二上山内にある塩場の池で水垢離を取る。
ここで21杯の水を被るのを1回とし、1日6回の水垢離を取る。これを祭りの当日まで続ける。
最後の水垢離の後、本堂で祈りつけが行われ、護法実に護法善神が憑依する。
護法善神に憑依された護法実は、紙垂を頭に被って、護法善神の使いの鳥のように羽ばたきながら両山寺境内を駆け回る。
トランス状態になった護法実は、超人的な跳躍力、体力を見せるという。一度見てみたいお祭りだ。
二上山の山頂に、泰澄法師の石碑があるというので、西峰に登ってみた。
こちらが二上山の最高峰だからだが、登ってみると、アンテナがあるばかりで、石碑はなかった。無駄足を踏んだと思った。
東屋を過ぎてしばらく行くと、開祖泰澄の石碑があった。
泰澄法師は、北陸の白山周辺の寺院を開いた人物だが、そんな人がなぜ美作を訪れ両山寺を開いたかは謎である。
今回、泰澄法師の石碑を探して、図らずも二上山の東峰、西峰の両山に登ることになった。
この二つの峰は、密教の金剛界と胎蔵界という二つの世界を仮託された山だと思われる。
西峰に登った時は無駄足を踏んだかと思ったが、お陰で金胎両部の曼荼羅の中を歩けたかも知れないと思うと、これも護法善神の御導きかと有難く受け止めた。