文常寺から東に走り、豊岡市祥雲寺にある兵庫県立コウノトリの郷公園を訪れた。
コウノトリは、かつては日本各地に広範囲に生息していたが、明治時代になって乱獲され、個体数が激減した。
但馬では、出石藩がコウノトリを霊鳥として扱っていたため、昭和になっても、若狭と並んで野生個体が残存する地域となっていた。
戦後になって、営巣林が減少したり、水田を荒らす害鳥として駆除されたこともあり、但馬でも野生個体が減少し、絶滅に近づいた。
昭和40年に、豊岡市野上にコウノトリ保護増殖センターが出来て、コウノトリの野生個体を捕獲して、ゲージの中で繁殖させる試みが始まった。
昭和46年に、保護飼育のため、豊岡で2羽の野生個体が捕獲され、日本におけるコウノトリの野生個体は絶滅した。
その後、保護増殖センターでは、ロシアから譲り受けた個体の飼育下での繁殖に成功した。
平成11年、コウノトリの飼育、繁殖、野生化を進めるための施設として、兵庫県立コウノトリの郷公園が整備された。
将来の放鳥、野生化に備え、湿地や無農薬の水田が公園内に造られた。
公園は、西公開エリアと東公開エリアに分かれており、西公開エリアの公開ケージでは、飼育されているコウノトリを見学することが出来る。
平成17年には、この公園で飼育されたコウノトリを野外に放鳥することが初めて行われた。
平成19年には、放鳥して野生化したコウノトリが自然繁殖したのが確認された。
今では、野生のコウノトリ約100羽が、公園の周辺に生息している。
西公開エリアには、直径約2メートルのコウノトリの巣の模型があった。
コウノトリは、木の枝や草、藁を組み合わせて、樹上にこのような巣を作る。
西公開エリアの湿地には、野生のコウノトリはいなかったが、湿地の向こうの林を見上げると、樹上に野生のコウノトリの巣が複数見受けられた。
コウノトリの生態を説明する展示パネルや、コウノトリの剥製などが展示されている。
ここから歩いて5分ほどの場所に、東公開エリアの湿地群がある。
この湿地には、コウノトリが餌とする水生動物が生息する。たまに野生のコウノトリが湿地に降り立つという。
私が訪れた時には、コウノトリの姿はなかった。
湿地の奥には、飼育するコウノトリがいるドーム型ケージがある。
ドーム型ケージの中を歩くコウノトリを1羽確認できた。
私がドーム型ケージを見学していると、ケージの西側の湿地に1羽の野生のコウノトリが降り立つのが見えた。
コウノトリの神々しい姿を見て、何かの瑞兆のように感じた。やはりコウノトリは霊鳥なのか。
コウノトリは警戒心が強く、私が近づくと、すぐにそこを離れようとする。
惜しむらくは私の愛用するRX100の望遠機能が貧弱なことである。最大ズームにしても、上の写真が限界である。
もう少し近寄ろうとしたら、コウノトリは飛び立ってしまった。コウノトリは、地面から1メートルほどの高さを水平に滑空していった。
あっという間の出来事で、飛行中のコウノトリをカメラで追うことは出来なかった。
飛び立った野生のコウノトリは、公園北側の無農薬水田内に建つ祥雲寺巣塔の巣に降り立っていた。
いずれにしても、日本で野生個体が一度は絶滅したコウノトリが、少しづつ復活してきていることは、めでたいことである。
コウノトリがこの地で元気に生きている姿を見て、私も勇気をもらった気がした。