日産スカイライン

 スカイライン

 この言葉を耳にすると、私は懐かしいような、切ないような、甘酸っぱいような、そんな気持ちになる。と同時に、胸の高鳴りを覚える。私をこんな気持ちにさせる車は、スカイラインしかない。

 スイフトスポーツを愛車にしている今でも、スカイラインのニュースが流れると気になる。女性が、学生時代に好きだった先輩を思い出した時には、こんな気持ちになるのだろうか。

 今やスカイラインよりも高性能な車はいくらでもある。走りの質感では、BMWの方が上かも知れない。ポルシェ911には逆立ちしても勝てないだろう。それでも、私をさっきのような気持にさせる車は、スカイラインしかない。

 なぜなのだろう。考えてみた。まずは歴史である。スカイラインには歴史がある。昨日グロリアの記事で書いたように、歴代スカイラインには、プリンス、日産の技術陣が、レースで勝つことを目的に作った、ホモロゲーションモデルがある。S54GT-B、KPGC10型GT-R、R32、33、34GT-R。

f:id:sogensyooku:20190722223900j:plain

3代目スカイライン、PGC10型GT-R

 これらのモデルは、スカイラインの中では特殊なモデルだが、あくまでもファミリーユースで使えるセダンをベースに作った点にロマンがある。GT-Rに乗れなくても、普通のグレードのスカイラインに乗っているだけで、「俺の車をベースに作ったGT-Rが、レースでは無敵なのだ」と思うことが出来る。

 私は、かつてR32スカイラインのNAモデルに乗っていた。グレードは、GTSタイプJという、マイナーモデルである。5速ミッションのクーペ。NAの直列6気筒エンジンは、パワーはそれほどでもないが、高回転までスムーズに回り、官能的なエンジン音を響かせた。

f:id:sogensyooku:20190722221120j:plain

R32スカイライン(画像日産)

 上のグレードでは標準装備のスーパーハイキャスが着いていないので、ハンドリングは素直であった。車が、「ここでブレーキを踏んで荷重を前に移して、このタイミングでハンドルを切って、ここでアクセルを踏んだら、後輪がこれぐらい滑り、頭がこっちに向く」と心の中で思い描いたとおりに動いてくれた。

 エンジンの回転の気持ちよさと、意のままに動いてくれる車体。これが合わさって、「爽快な走り」となる。その点で、私のR32は、爽快な走りを実現していた。弱点は、自然吸気2000cc直列6気筒エンジンの低速トルクが細かったことである。走り出しは渋かった。「あと100キロ軽かったら」といつも思っていた。

 そう、私がスカイラインに求めるのは、「爽快な走り」である。決して暴力的な加速だとか、単純な速さではない。スカイラインは、プリンス自動車の開発者櫻井真一郎が、群馬県の高原を訪れた時に、彼方の山並みの地平線(スカイライン)を眺めて、車名を決めたとされる。高原の空気を吸いながら眺める山並みのように、気持ちの良い爽やかな走りが、スカイラインスカイラインである第一条件だ。爽快な走りのためには、回転がスムーズな直列6気筒エンジンと回頭性のいいFRの組み合わせが理想だ。

 次に求めるのは、レースの息吹を感じるスパルタンさである。スカイラインに豪華さはいらない。GT-Rはレースを前提に作られているが、ベース車である普通のスカイラインにも、レース車の血が流れていると感じさせる作り方をしてもらいたい。

 普通のセダンベースの車を改造してポルシェを追いかける、というのが元々のスカイラインのロマンであった。昔のスカイラインからは、作り手の熱さを感じることができた。

 GT-Rスカイラインから独立して、レースに出場していないV35以降のスカイラインには、それを求めることは出来ないのかも知れない(スカイラインの海外仕様であるインフィニティQ50の2.0tは、BTCCに出ているが)。それでも、R35GT-Rで培った技術をスカイラインに導入してくれれば、気分は高揚する。

 ここで思いついたが、私がスカイラインに求める絶対条件は、高回転域で野太く咆哮するエンジン音である。これがなければ、どんなに性能が良くても買わない。

 スカイラインは、今や全く売れていない。スカイラインと聞いて、胸にときめきを覚える世代は、R32、33、34に憧れた40代以上の世代だろう。とは言え、スカイライン史上最も売れた70年代のケンメリ、ジャパンは、排ガス規制で牙を抜かれて、走りは低評価だった。売れればいいというものでもない。

 7月16日に発表された、V37スカイラインのマイナーチェンジモデルは、日産のシンボルであるVモーショングリルと日産のエンブレムを採用し、丸型テールランプを復活させた。エンジンも待望の3000ccツインターボVR30DDTT型エンジンを搭載する。最強グレードの400Rは、スカイライン史上最強の405馬力のエンジンを積む。

f:id:sogensyooku:20190722225054j:plain

V37スカイライン(画像日産)

 今の日産からは、ゴーン時代にアメリカ市場に向いていたスカイラインを、日本のスカイラインとして売り出そうとする意志を感じる。次のV38には、更に期待できる。

 日産スカイライン開発陣には、ひたすら爽快な走りとスパルタンさを求め続けて欲しい。R32スカイラインの運転席に座ると、車が「俺は走ることしか考えていない」と主張しているように感じたものだ。それは、作り手の意志が車を通じてドライバーに届いていたことを意味する。

 私がR32の運転席に座っていた時には、私がスカイラインに求めていたものと、作り手が車を通じてドライバーに伝えたかったことが一致していた。この幸福な体験があったから、今でもスカイラインの名前を聞くと、冒頭に書いたような気持ちになるのだろう。 

 それにしても、人に恋心に近い気持ちを抱かせる自動車という道具は、一体どういう道具なのだろう。