ザ・ローリング・ストーンズ

 ザ・ローリング・ストーンズはカッコいい。

 いいバンドは、その佇まいからも「音が聞こえてくる」というが、ストーンズメンバーが揃った写真からは、「彼らの音が鳴っている」のを感じる。

 ストーンズは、1962年に英国で結成されたバンドで、今年で結成61年である。驚くべきことに、未だに現役で活動している。

 世界最長の活動記録を持つロックバンドだが、1960年代は、ビートルズと人気を二分するバンドだった。

 ボーカルでフロントマンのミック・ジャガーは1943年生まれで、もう80歳である。

 ギターのキース・リチャーズは78歳、ロン・ウッドは76歳だ。

 この年齢で、ステージ上を軽快に動きながら演奏しているのだから驚きだ。

 2021年にドラムのチャーリー・ワッツが死去して、バンドが休止するかと思ったが、バンド名のように止まることなく転がり続けている。

 この年齢になって、現役でコンサートツアーをしているだけでも驚異だが、彼らは10月20日に18年ぶりのスタジオアルバムを出した。「HACKNEY  DIAMONDS」である。

最新アルバム「HACKNEY DIAMONDS」(2023年)

 このアルバムを聴いて驚いた。ミック・ジャガーのボーカルの力強さはいささかも衰えておらず、近年にないキャッチーでパワフルな楽曲が並んでいる。捨て曲なしだ。

 ストーンズのベーシストだったビル・ワイマンは1993年にバンドを脱退し、ドラマーのチャーリー・ワッツは2021年に死去した。その後を埋めたのは、ツアーサポートメンバーのダリル・ジョーンズ(ベース)とスティーブ・ジョーダン(ドラム)である。

 この二人は正式メンバーではないが、「HACKNEY  DIAMONDS」のレコーディングにも参加している。

 この二人のリズム隊からは、ストーンズ独特のノリを生み出した「タメ」は感じられないが、まずまず上手い演奏で、これはこれでありである。

 新アルバムは、1981年発表のアルバム「TATOO YOU」以降では、間違いなく最高傑作だろう。ストーンズの歴代最高のアルバムと呼ばれる「EXILE  ON  MAIN  ST.」以来の傑作と評する人もいるほどだ。

 「EXILE  ON  MAIN  ST.」は、1972年の作品だ。半世紀前の作である。ストーンズの新アルバムが、「半世紀ぶりの傑作」と呼ばれるのは、冗談ではなくリアルな話なのである。

 私がローリングストーンズを最初に聴いたのは、かれこれ26年前になる。

ファーストアルバム「THE ROLLING STONES」(1964年)

 当時は町の小さな本屋にCD店が併設されていた。

 そんな店でファーストアルバム「THE ROLLING STONES」を買った。

 当時はビートルズばかり聴いていたが、ビートルズのライバルのストーンズも聴いてみようと思ったのである。

 ストーンズは、ブルースのカバーから出発したバンドである。ファーストアルバムの大半も、ブルースのカバー曲だった。

 後に私は、エリック・クラプトンなどのブルースカバーを聴くようになったが、ストーンズのブルースカバーは、それらと比べても何故かとっつきやすい。

 日本人は、ブルースのどろりとした曲調になかなか馴染みがないと思うが、ストーンズの奏でるブルースは、日本人にも聴きやすいのではないかと思われる。

 私もストーンズを聴き始めてから、ブルース調のロックが好きになった。

 ブルースカバーバンドから始まったストーンズだが、次第にミック・ジャガーとギターのキース・リチャーズが共同してオリジナル曲を作るようになる。そして名曲が立て続けに作られた1968年から1972年が、ストーンズの最盛期と言われている。

 中でも、1968年に発表された「BEGGARS  BANQUET」はロックの歴史に残る名盤である。

「BEGGARS BANQUET」(1968年)

 いわゆる「便所の落書き」ジャケットも物議をかもしたが、アルバム収録曲は、そんなジャケットなど可愛く思えるほどの問題作揃いである。

 どろどろとしていてどこかアメリカ南部の土の匂いがするような、ストーンズ独特のルーズなノリは、他のバンドにない味わいだが、このアルバムの楽曲はまさにそんな土臭いストーンズ調全開である。

 このアルバムの中で私が好きな「STRAY CAT BLUES」などは、ここで文章にするのが憚られるような内容の歌詞の曲だが、チャーリー・ワッツの人を叩き殺すかのような畳みかけるドラムの音が秀逸である。この曲を聴くと、私は何故か三島由紀夫の短編小説「家族合せ」を思い浮かべる。

 音楽が人生の一場面の記憶と結びつくことは、たまにあることだが、私にとってストーンズの曲で人生の記憶と結びついているのは、アルバム「STICKY FINGERS」の1曲目「BROWN SUGAR」である。

「STICKY FINGERS」(1971年)

 平成12年6月25日に、仕事で沖縄に向かうため、飛行機に乗っていた私は、座席にヘッドフォンをつないでラジオを聴いていた。

 ラジオから、ストーンズの「BROWN SUGAR」が流れてきた。機上で聴くのにいかにも相応しい曲と思えた。

 私は、ストーンズが1970年代のある日、ニューヨークの屋外でする予定だった新曲発表の記者会見会場に、突然トラックの荷台に乗って現れ、集まった記者たちの前で、荷台の上に乗ったまま「BROWN SUGAR」1曲を演奏し、驚きあきれた記者たちを後目にそのままトラックに乗って立ち去ったという逸話を思い出した。

 記者会見より、とにかく俺たちの音楽を聴けということか。

 ああ、ストーンズ。なんでこんなにかっこいいのか。

 彼らの最高傑作と言われる「EXILE  ON  MAIN  ST.」(日本名:メインストリートのならず者)は、私も最高傑作と思うアルバムである。

EXILE ON MAIN ST.」(1972年)

 1曲目の「ROCKS OFF」のイントロのギターは、いつ聴いてもドキドキする。

 このアルバムは、全部で18曲ある大作である。ロック、ブルース、ゴスペル、カントリーなど、アメリカで育った音楽のごった煮のような何でもあり感がある。

 「これ」という必殺チューンはないが、アルバムに籠められた音楽文化の土壌の厚さで、これに勝るロックアルバムはなかなか無いのではないか。

 このアルバム以降のストーンズは、少し下り坂になるが、それでも70年代後半には「BLACK & BLUE」や「SOME GIRLS」といった名作を生み出している。

「BLACK & BLUE」(1976年)

 「BLACK & BLUE」の4曲目のバラード「MEMORY MOTEL」は名曲である。

 この曲は、いつも自分の人生の一時期の記憶に結び付けて聴いてしまう。

 ザ・ローリング・ストーンズは、カッコいい。

 転がる石ころたちは、メンバーの死や脱退、逮捕や親しい人との死別といった危機を乗り越えて、今も転がり続けている。

 何よりも、自分たちの音楽を演奏し、人々に届けるのが好きだからこそ続けられるのだろう。

 私も、ストーンズが転がり続けている間は、頑張っていられるような気がする。

 私は色んなバンドの曲を聴いたが、やはりビートルズストーンズは別格である。この2つのバンドを生み出した1960年代は、革新的な時代だったと言えるだろう。