酒賀神社の参拝を終え、鳥取市国府町雨滝にある日本の滝百選の一つ、雨滝に向かった。
雨滝の近くには、標高690メートルの山上にある七曲城跡がある。
駐車場に車をとめると、正面に七曲城跡のある山が見えた。
円錐状の綺麗な山容の山である。
駐車場に車をとめて、雨滝に向かって歩き始めた。
雨滝の周辺には、雨滝を入れて大小9つの滝がある。だが渓谷の奥に至る道は現在通行止めになっていた。
そのため、4つの滝の見学をしたのみに終わった。七曲城跡にも登ることが出来なかった。
最初に見学したのは布引の滝である。
布引の滝は、絹の布を山腹にかけ流したように美しいので、この名がついた。
布引の滝の水は、山の中腹から湧き出る地下水なので、長期の日照りの時でも豪雨の時でも水量が変わらない。
豪快で男性的な雨滝と対照的な、女性的で優美な滝である。
布引の滝から雨滝に向かって歩くと、右手に仏谷渓谷がある。
水流が苔の付いた岩石の間を幾重にも別れて流れ落ち、リズミカルな水音を響かせている。
心が和む渓谷だ。
仏谷渓谷から雨滝に向かって歩くと、桂の大木がある。
江戸時代の記録によれば、当時既に今の単位で幹回り20メートルもあったそうだ。日本の320本の名木の一つに数えられていたという。
樹齢数百年の桂には神霊が宿るという。雨滝の手前にあるこの桂の大木は、雨滝に宿る神霊と長年親しくしてきたことだろう。
さて、桂の大木を過ぎて雨滝に対面する。
雨滝は、幅約4メートル、高さ約40メートルを誇る鳥取県下随一の飛瀑である。
トチ、ブナなどの千古の原生林に包まれ、断崖絶壁から轟音と共に落水する威容から、平成2年に日本の滝百選に選ばれた。
それにしても水量が豊かな滝である。写真を写すために滝に近寄ると、滝の周りに飛び散った水滴が飛び交っていて、小雨の中に立つようだった。
雨滝は、過去には修験者が滝行をする修業の場、霊場でもあったという。
さて、雨滝を過ぎて七曲城跡に行こうとしたが、遊歩道が木橋流失のため通行止めになっていた。
七曲城跡への登り路は、この先にあると思われるが、通行止めのため登頂は断念することにした。
山頂に向いて斜面を見上げると、木がまばらなので登っていけないこともなさそうだったが、やめておいた。
トチやブナの林には、ツキノワグマが生息している。道なき道を行った果てに、遭難の可能性もある。史跡巡りの要諦は、無理をしないことである。
さて、七曲城跡のある山の裾を巡って、奥にある筥滝に向かった。
この筥滝は、露出した玄武岩の柱状節理の上を流れ落ちる見事な滝だった。
いやもう見事この上ない。雨滝は駐車場から近いので、観光客が多かったが、筥滝は雨滝からアップダウンのある道を約20分歩かねばならないので、見学客は私だけだった。
この雄大な滝を、一時独り占めしたような気分になった。
雨滝から筥滝までの道は、緑と紅葉が映える断崖が続き、季節感の豊かな景色であった。
ここに来て、山陰の秋を堪能した気がした。
さて、雨滝の手前にある雨滝集落から、かつて法美往来と呼ばれた県道31号線を北に走ると、鳥取市と岩美郡岩美町との境にある十王峠に至る。
十王峠は、かつて修験者たちが往来した峠である。
十王とは、人の罪を裁く冥土の十人の王の名に因んでいる。
峠の脇の山際に、石積みのようなものがあったが、何を意味するのか分からなかった。
因幡は実は修験道が盛んだった地域である。雨滝も十王峠も、修験者ゆかりの地である。
変化に富んだ自然の中で、天地の中を駆けずり回り、誦経をしていけば、いずれ天地一杯に自己が広がり、天地と自己の境目がなくなるのだろうか。
千古の昔から続く風景と自己が一体になれば、心の中は清冽な滝のように、ただ水音を響かせるだけになるのだろう。