時計について

 ここのところ地味な史跡巡りの記事が続いたので、今日は趣向を変えてみる。

 男性が好きな物と言えば、車、カメラ、そして時計が定番である。それに万年筆が加わるか。

 私が使っている車、カメラについては既に書いたので、今日は時計について書きたい。と言っても、私は高級ブランド時計をしている訳ではない。

 私が今使っている腕時計は、セイコー・メカニカル(SARB035)である。 

f:id:sogensyooku:20191010210321j:plain

セイコー・メカニカル

 この時計は、セイコーが国内で販売する機械式時計の中では最安の時計である。販売実勢価格は、約38,000円である。

 私は元々機械式時計に憧れがあって、かつてはオメガ・スピードマスター・プロフェッショナルを使用していた。

 スピードマスター・プロフェッショナルは、1957年にスイスのオメガ社が販売し始めた機械式の手巻き時計である。発売されてから62年、モデルチェンジを重ねているが、ほとんどデザインが変わっていない時計である。NASAアポロ計画の宇宙飛行士用の腕時計として正式採用した時計としても有名だ。

 無重力の宇宙空間では、自動巻きの時計ではゼンマイが巻き上がってしまう。クオーツ時計では、宇宙線に曝されたら壊れてしまう。NASAが耐久性、耐磁性の試験をした数ある機械式の手巻き時計の中で、最も正確に時を刻み続けたのがスピマス・プロであった。

 結果、スピマスプロは、アポロ計画に採用され、人類史上初めて地球外の星の上で時を刻んだ腕時計となった。

f:id:sogensyooku:20191010211736j:plain

「下がりr」のスピマスプロ

 映画「アポロ13」でも有名だが、機器が故障して月の裏側で遭難しかかったアポロ13のクルーが、姿勢制御用のブースターを噴射して、アポロ13を地球に向かう軌道に戻す際に、9秒間という噴射時間を計るために使ったのがスピマスプロのストップウォッチ機能であった。この時計のおかげで、アポロ13のクルーは地球に生還できた。そんな伝説の腕時計を自分の腕にはめてみたいと思ったのである。

 私は、平成15年に、姫路のヤマトヤシキの質流れ市で写真のスピマスプロを買った。初めて腕にした時の感動は忘れられない。 

 機械式時計は、ネジとゼンマイと歯車で動く。定期的に油を差さなければ性能を維持できない。大体4年毎のオーバーホールが必要となる。1回のオーバーホールで、約4万円が必要となる。

 私のスピマスプロは、平成27年に、購入してから三度目のオーバーホールを依頼した際に、頼んだお店から、プッシュボタンが詰まって押せなくなっていたので、修理に約10万円かかると言われた。

 私はそれほど時計が命、というわけではないので、そんなにお金を出してまでオーバーホールをする気が起らなかった。私のスピマスプロは、ネジを巻いても動かなくなり、今は艸玄書屋の古机の引き出しの中で眠っている。

 スピマスプロは、1957年のデビュー以来、主なデザインはほとんど変わっていないが、時代時代で少しづつ変化している。

 私のスピマスプロは、製造番号で調べたら、1991年製であった。当時のスピマスプロは、文字盤の「speedmaster」のrの右側が下に伸びている。そして、Sの字が縦に長い。これが今は「下がりr」と呼ばれ、コレクターズアイテムになっているらしく、ネット上でも中古で50万円くらいで売っているのを見かけるようになった。

 さて、私はスピマスプロをお蔵入りさせたが、替わりの腕時計を何にするかを考えた。

 ソーラー電波時計が最も正確であるのは言うまでもないが、それでは味気ない。機械式時計を耳元に近づけた時の「コチコチ」という音が忘れがたい。

 かといって、オーバーホールをたびたびしなければいけない機械式腕時計はお金がかかり、面倒でもある。

 色々調べると、セイコー・メカニカルに積んでいる6R15というムーブメントが頑健であると分かった。セイコーは、セイコー5という、世界最安の機械式時計を海外で売っている。中東ではよく売れているらしい。このセイコー5は、機械式時計でありながら、ノーメンテでも壊れずに長いこと使えるそうだ。セイコー5のムーブメントを改良したのが、6R15である。

 私は、シンプルで信頼性が高い機械が好きだ。カメラならニコンF、F2、2輪車ならホンダ・スーパーカブ。4輪車ならハイラックス・サーフ(個人的にはトヨタ車はあまり好きではないが、ハイラックスサーフの頑健さは認める)。宇宙船ならソユーズ。兵器のことはあまり書きたくないが、自動小銃ならAK47、携帯式対戦車榴弾砲ならRPG-7

 この中で、ハイラックスサーフAK47RPG-7は、中東のテロリストグループが愛用している。使いやすく、壊れない。壊れても構造が単純なので、修理し易いというのが共通点である。中東の人たちに認められたセイコー5も、シンプルで壊れにくいことは共通している。

 スーパーカブの頑健さには様々な都市伝説が付随している。エンジンはオイル交換をしなくても半永久的に動く、エンジンオイルの替わりにてんぷら油を差したが動いたなど。

 私は、セイコー5のムーブメントを受け継いだセイコー・メカニカルなら、メンテをしなくても半永久的に動いてくれるのではないかと勝手な期待を抱いた。さながら、時計界のスーパーカブだろうと。しかもムーブメントは、安いながらも信頼の日本製である。これにしよう、と思い買った。

 購入してから4年以上経って、通常の機械式時計ならオーバーホールの時期だが、何の問題もなく動いている。

 セイコー・メカニカルには、様々なデザインのものがある。私は何となく「昭和の平凡なサラリーマンがしていたような時計」が欲しいと思っていた。そこで、それらしい文字盤がアイボリーの無個性なデザインのものを選んだ。

 少し前に実家に行ったら、親父が昔勤め人だった時にしていた時計を久々に見た。そんな時計を親父がしていたことをすっかり忘れていたが、それがアイボリーのセイコーの自動巻き時計だった。私は無意識に親父のしていた時計に似たものを選んでいた。

 親父がその時計をしなくなって、2~30年は経っていると思うが、腕時計を振ると、コチコチ動き出した。ノーメンテでもこれだ。私のセイコー・メカニカルも、ノーメンテで30年は動いてくれるだろう。

 ソーラー電波時計でも、ソーラーで発電した電力を貯める電池の能力が低下する時が来る。電池交換やオーバーホールの必要がない頑健な機械式時計こそ、本当の意味で「半永久機関」なのではないか。

 まあそれでも、「下がりr」のスピマスプロをもう一度使ってみたい気もする。気が向いてお金にゆとりがあれば、また直して使ってみるか。