旧美歎水源地水道施設 後編

 貯水池に溜まった水は、粗石モルタル積堰堤の放水口から下流に流される。

堰堤に堰き止められた貯水池

放流される川水

 だが水道水として利用される水は、地中に埋められた送水管を使って濾過池に送られ、そこで濾過されて綺麗な水になった。

送水管(左)と配水管(右)

濾過池全景

濾過池の図

 濾過池は、1号濾過池から5号濾過池まで、全部で5つある。

 濾過池は、コンクリートの上に煉瓦を貼って防水している。貯水池の水は、送水管を通過して、濾過池の取水口から濾過池内に入る。

4号濾過池

防水用煉瓦

濾過池への取水口

 濾過池は、集水梁の上に、砂利、砂を粒の大きいものから順に層状に敷いている。

 砂の層の上には、藻などの微生物が発生して生物膜を形成していた。生物膜の微生物は、水中の汚れを栄養物として取り入れて分解した。

濾過池の断面図

 3号濾過池には、実際に水が溜められていて、当時の状況を再現している。

3号濾過池

濾過池に棲むイモリ

 水が綺麗なのか、濾過池の中にはイモリが棲んでいた。そのイモリを狙っているのか、付近には蛇もいた。

 さて、濾過された水は、濾過池の底にある集水梁を伝って制水井(せいすいせい)に集められる。

制水井上屋

制水井上屋内

 制水井の上には上屋が建っている。上屋内には、制水井内の水位を調整する調整バルブがある。

 上屋の床にある鉄の蓋を上げると、制水井を上から覗くことが出来る。

制水井内の水

 5つの濾過池の水は、各濾過池に付属する制水井から接合井に集められる。

接合井上屋

接合井内

 接合井内壁は煉瓦製である。接合井の床の鉄の蓋は開けることが出来なかった。

 接合井にて合流した水は、送水管を使って長田山配水場まで運ばれた。

 送水管は、途中で美歎川に架かった水道橋の脇を通る。

水道橋

水道橋と送水管、水道施設の門

 上の写真の水道橋の左側にある灰色の管が送水管である。

 この水道橋が、旧美歎水源地水道施設の門に繋がっていて、施設の出入口の役割を果たしている。

 ちなみに、門から入って右手に芝生の広い空間があるが、ここには平成4年まで、水道施設の旧事務所が建っていた。

旧事務所跡地

 水道橋を越えると、下流に量水器室が設置してあって、ここで送水管を流れる水の流量が量られた。

量水器室

量水器

 量水器室の下を通過した水は、約7キロメートル下流にある長田山配水池まで流れ、そこから配水管を通じて鳥取市内に配水された。

 この旧美歎水源地水道施設であるが、昭和53年に取水をやめて、休止することになった。

 平成元年には、鳥取市が殿ダムの利水に参加することになったため、旧美歎水源地水道施設の廃止が決定した。

 平成5年に施設は廃止となり、平成11年から粗石モルタル積堰堤は砂防ダムとして使われることになった。

 だが旧美歎水源地水道施設は、山陰地方で初の本格的な近代水道施設であり、取水から送水まで、近代上水道のシステムを良好な状態で残していることから、平成19年に国指定重要文化財となり、平成30年から一般公開されることになった。

 明治の近代化遺産も、平成になってから重要文化財に指定されるようになってきた。旧美歎水源地水道施設は大正の設備である。明治大正の近代化も、もう歴史の領域にあるのである。