上齋原から国道179号線を北上すると、鳥取県境に差し掛かる。
国道179号線をそのまま進むと、県境にある人形峠の下を潜る人形トンネルに入る。
トンネル手前の道を左に入りしばらく進むと、人形峠に到達する。
人形峠の頂点が、岡山県(美作)と鳥取県(伯耆)の県境である。
人形峠の手前にあるのが、人形峠アトムサイエンス館と上齋原スペースガードセンターである。
今日は、人形峠アトムサイエンス館を紹介する。
昨日の妖精の森ガラス美術館の記事でも紹介したが、人形峠周辺は日本で初めてウラン鉱石が発見された場所である。
そのため、この人形峠は日本の原子力開発事業の起点となった。人形峠アトムサイエンス館は、日本の原子力開発事業を分かりやすく紹介する施設である。
昭和30年11月に、人形峠付近で放射線測定器を積んだジープが、ウランの探索を行っていたところ、測定器が反応し、ウラン鉱床が発見された。
人形峠のウラン坑道は、地下約30~100メートルにあり、礫岩、砂岩の中にリンカイウラン石などのウラン鉱石が含まれている。
ウランは原子の一種で、原子の中では最も重量がある。
そして、よく知られているように、ウランは原子力発電に利用されている。
原子力発電の仕組みを理解するには、原子の構造を知らねばならない。
我々の世界を形作っている原子は、中心の原子核とその周りに存在する電子によって出来ている。
原子核は、陽子と中性子が結合して出来ている。この原子核を構成する陽子と中性子の数の違いで、原子の種類が決まっている。
自然界には、世界を成り立たせている4つの力がある。即ち重力、電磁気力、弱い力、強い力である。この世界に存在する力は、どれもこの4つの力のどれかに当てはまる。
原子核を結合させているのが、強い力である。
原子核に中性子をぶつけると、原子核が分裂し、その過程で更に中性子が放出され、他の原子核にぶつかって、核分裂を連鎖させる。
核分裂により原子核を結合させている強い力が開放されると、莫大なエネルギーが放出される。
この核分裂を急激に発生させて爆発を引き起こすのが原子爆弾であり、緩やかに発生させて、放出された熱エネルギーを利用して発電を行うのが原子力発電である。
考えようによっては、我々の体や周囲の環境を成り立たせている原子は、原子爆弾の爆発に象徴される膨大なエネルギーによって繋ぎ止められているのである。
ウラン1グラムで、石油2,000リットル分、石炭3トン分のエネルギーを放出するという。
原子力発電は、僅かな資源から膨大なエネルギーを取り出すことが出来る反面、放射性物質を含む放射性廃棄物を生み出す。
また、事故により原子炉が溶融すれば、膨大な放射性物質が大気中に放出され、周辺が汚染される。
日本の原子力発電を巡る環境は、平成23年3月11日に発生した東日本大震災から激変した。
東日本大震災で、福島第一原発の原子炉を冷却する電源が停止した時は、原子炉を冷やす水が蒸発して原子炉の炉心がむき出しとなり、放射性物質が大気中に放出される危険が高まった。
最終的に航空自衛隊の高性能放水車が原子炉に放水し、冷却に成功したが、それがなければ、放出された放射性物質に汚染され、東日本には人が住めなくなっていた可能性がある。
あの時、東北地方、関東地方に人が住めなくなる事態が、目前に迫っていたのである。
福島第一原発事故は、日本の歴史上最大の日本国存亡の危機だったわけだ。
原発事故の恐怖を体験した日本人は、日本にある大半の原子力発電所の運行を停止することを選択した。
だが、石油や天然ガスといった化石燃料も無限にあるわけではない。おそらく今世紀中に枯渇するだろう。
また、燃焼時に二酸化炭素を発生させる化石燃料が地球温暖化を促進させるとして、世界的に脱炭素の流れが強まっている。化石燃料の価格も、長期的に見れば必ず上がっていく。
再生可能エネルギーのコストは高く、発電の安定性もまだ低い。
再生可能エネルギーが安くなるまでのつなぎとしての原子力発電の有用性も、まだ失われたわけではない。
日本の原子力発電をどうするべきかについて、私も個人的に意見を持っているが、ここでは述べない。
原発事故も人の命に直結するが、原発を動かさないことで発電コストが上昇すれば、それも人の命に関わる。
日本は民主国家である。我が国をどうするかは、国民もしくはその代表が決める。時間はかかるかも知れないが、国民的議論の果てに方針を決めるしかないだろう。