玄武洞ミュージアム その3

 玄武洞ミュージアムの2階には、生命が誕生してから人類誕生に至るまでの生命の歴史に関する資料が豊富に展示してある。

 本物の化石もあれば、レプリカもあるが、とにかく見ごたえのある展示であった。

 我々の住むこの惑星、地球が誕生したのは、約46億年前と言われている。地球誕生からの約40億年間は、先カンブリア時代と呼ばれている。この時代にも、バクテリアのような生命が海中に生息していた。

 約30億年前に、突然変異により、光合成をして酸素を放出するストロマトライトという藍藻類が海中に生まれた。

ストロマトライトの化石

 ストロマトライトが誕生するまで、大気中に酸素はほとんど存在しなかった。ストロマトライトが放出した酸素は、海中で鉄分と結びついて縞状鉄鉱層を形成したが、酸素が余剰状態になると、次第に大気中に放出されるようになった。

 今地球上で生きている生物は、ほぼ全て酸素をエネルギー源として取り入れているが、酸素は金属を錆びさせるように、強力な酸化作用を起こす。

 海中にいた原始生物は、酸素の出現でほとんど絶滅した。酸素は有毒であると同時に、これを有効に使うことが出来れば強力なエネルギー源になる。酸素を有効活用できるように突然変異した生物は生き残った。

 細胞膜を持つ真核生物は、酸素のおかげで出現した。我々人類もその一部である多細胞生物も、酸素の力がなければ体を維持できない。細胞が多数集合することで、生物は様々な機能を持てるようになった。

 約5億4千万年前から、古生代が始まる。古生代最初の時代は、カンブリア紀と呼ばれる。

 カンブリア紀には、爆発的に生物の種類が増えた。現代に生きる生物の種の祖先のほとんどがこの時代に誕生した。これをカンブリア爆発という。

目を持った捕食者アノマロカリスの模型

 生物の種類が爆発的に増えた原因は、目を持つ生物が誕生したからだと言われている。

 目を持つことで、生物は他の生物をすぐに発見し、捕食出来るようになった。このため生物間で生存競争が激しくなり、競争の過程で進化が進み、多様な生物が生まれた。

 目は他の生物を捕食するために生まれた器官である。目を持つ人間も捕食者である。人間は自分たちをそんなふうに考えたくないかも知れないが、自分たちの食生活を考えた時、それが嘘ではないとすぐに気づかされる。

 また、カンブリア紀に誕生したのは、目だけではない。脊索が誕生した。

カンブリア紀の脊索動物ピカイアの化石のレプリカ

 脊索動物は、背中側に神経管を持っている。脊索動物から脊椎動物が進化したが、神経管を背骨が包むようになった脊椎動物は、神経管の先に脳を持つようになった。

 これも生存競争の中から獲得した機能だろう。背骨を持つ我々人類も脊椎動物だが、その祖先である背骨を持つ魚類は、カンブリア紀に誕生した。

 カンブリア紀には、固い甲殻を持った三葉虫なども誕生したが、約4億8500万年前に始まったオルビドス紀には、海中でその三葉虫が繁殖した。

オルビドス紀の三葉虫の化石

 約4億4千万年前に始まったシルル紀は、大気中の二酸化炭素の濃度が今の約20倍で、現代人が問題にする地球温暖化どころではない温暖な気候であった。

 この時代には、海中に三葉虫やウミユリ、軟体動物が生息し、サンゴ礁が広がっていた。

ウミユリの化石

 シルル紀には、顎を持った魚が誕生した。生物は顎を持つことで、効率的に食料を摂取することが出来るようになった。また、鼻孔を持った魚も誕生した。

 顎を持った魚類のシーラカンスは、この時代に登場した。

シーラカンスの化石

 顎や鼻孔を持つ我々人類も、顎や鼻孔を最初に獲得したこの時代の魚類の子孫である。

 約4億1900万年前から始まったデボン紀は、魚類の時代と言われる。

 この時代に、アンモナイトも登場する。

アンモナイトの化石

デボン紀のヒトデの化石

 デボン紀になると、大気中の酸素濃度が増え、成層圏オゾン層が形成され、太陽からの紫外線がカットされるようになった。

 このため、陸上に生物が上陸出来るようになった。

 トクサ類やシダ類が地上に進出し、原始的な森林を作った。

 デボン紀後期には、寒冷化が進み、海中が無酸素状態になり、生物が大量絶滅した。

 デボン紀に形成され始めた地上の植物群は、その後地中で石炭になった。約3億6千万年前から、石炭紀が始まる。

石炭紀の地層から発掘された石炭

 石炭紀には樹木を分解する能力のある菌類がまだ存在せず、寿命を迎えた樹木は分解されることなく石炭になった。

 菌類が樹木を分解する過程で、二酸化炭素が放出されるが、石炭紀には樹木が分解されなかったので、光合成がひたすら進み、大気中の酸素濃度が35%にもなった。

 また石炭紀から、両生類が地上に進出するようになる。ついに生物は足を持つに至った。

両生類セイムリアの化石のレプリカ

 最初の両生類セイムリアは幼生時は水中で過ごし、成体になると足を持って地上を歩いた。

 足を持つ我々人類は、足を最初に持った両生類の子孫である。

 約3億年前に始まるペルム紀になると、哺乳類の祖先である単弓類が誕生する。

単弓類ディメトロドンの化石のレプリカ

 上の写真のディメトロドンは、眼窩の後ろに一つの穴が開いているが、これが単弓類の特徴である。

 見たところ、爬虫類のように見えるが、爬虫類は眼窩の後ろに2つの穴が開く双弓類で、ディメトロドンとは進化の系統が異なる。

 単弓類は、我々哺乳類の祖先である。横隔膜を使って呼吸し、生えた場所によって歯の形態が違う異歯性を有する。

 ペルム紀の末期の約2億5千万年前に、大気中の酸素濃度が約12%まで下がり、呼吸できなくなった生物が大量絶滅する。生物の95%が滅んだという。酸素濃度12%では、現生人類も絶滅するだろう。

 今まで紹介したカンブリア紀からペルム紀までを古生代という。

 双弓類から進化した恐竜は、気嚢を持ち、酸素濃度が低くても適応出来た。ここに恐竜時代と言われる中生代が始まる。

 こうして生命の進化の歴史を見ると、我々人類の持つ目や顎や鼻や歯や背骨や足は、これ全て他の生物を捕食して生き延びるために形成された機能であると分かる。

 我々は異性の顔を見て心動かされるが、捕食者の機能の集合した部位を見て心動かされていることになる。

 我々は猛獣を見たら恐ろしいと思うが、我々人類に食べられる生物の視点で我々を見ると、これ程残忍かつ計画的に他の生物を殺戮し捕食する恐ろしい動物はいないだろう。

 かと言って、人類の繁栄のためにはこれを止めることは出来ない。我々に出来ることは、我々もまぎれもない地球上の捕食者の一種であると認識することであろう。