うろこの家1階の見学を終えて2階に上がる。
2階は中央に通路があり、建物の北東、南東、北西、南西にそれぞれ部屋がある。南側にはベランダがある。
南東の部屋は、絢爛豪華なアンティーク家具を多数置いている。
ヨーロッパの貴族の城館のような部屋だ。
北東の部屋は、古いゴルフクラブなど、男性の趣味の道具のアンティークを集めて置いた部屋である。
展示してあるクラシック・ゴルフクラブ・コレクションは、1890~1910年ころに作られたものである。
この他にも木製の古いスキー板などがあった。こうしたスポーツ用品でも、作られて100年経てばアンティークの仲間入りをするわけだ。
うろこの家の最後の持ち主は、ドイツ人教師と言われているが、萌黄の館や風見鶏の館と異なって、当時住んでいた住民が実際に使っていた家具はここには残っていないようだ。
今展示してあるのは、家の雰囲気に合うものを選んで集めてきたものだろう。
北西の部屋には、1850年ころにイギリスで制作された象嵌細工の丸テーブルが中央に据えられ、エミール・ガレの照明が吊るされている。
象嵌細工は、一つの素材に、異なる素材を嵌め込んで作る細工ものである。上のテーブルの模様部分は、テーブル素材と異なる木材を嵌め込んで作られている。驚くべき技巧である。
南西の部屋は、書斎のしつらいになっている。
私は自分の家を建てた時、頭の中で夢見ていたような書斎を作ろうと思い立った。
書斎の壁紙を近東風の唐草模様にし、書斎のデスクとして、英国アンティークのデスクを買い、浜本工芸の回転椅子を配した。
書斎の書棚はホームセンターの安物の組み立て書棚にしたが、リビングに一つだけアンティーク調の書棚を置いた。
今ではそのリビングの書棚に「鷗外全集」と旧版「三島由紀夫全集」を入れている。
私は、このうろこの家のような豪華なものではなくて、大正時代や昭和初期の日本の洋風住宅のような室内空間を作りたかった。
家は、人生で最も自分の時間を過ごす場所である。一生暮らす家を自分好みに作ると、気持ちは豊かになる。
うろこの家の南側は、ベランダになっている。
ベランダには何故かデンマーク王室が使用した橇が置かれている。
この橇はクルミの木で作られている。特徴的なのは、ドラゴンの彫刻である。バイキング船などにも、魔除けのために、船首に蛇や龍の頭などの信仰の対象や魔力のあるものを象った像を付けたものだが、この橇のドラゴンにも同じ意味があるようだ。
うろこの家の西側の棟は、うろこの家美術館として、美術品を展示している。
1階には原画展と題して北野異人館のイラスト画などが展示してあった。
2階ではヨーロッパ油彩名画展が開かれていた。油彩画の他にも、エミール・ガレのガラス製品などが展示してあった。
油彩画の中では、ジュール・ノエルというフランスの画家の「嵐のち晴」という作品が良かった。
どうも私は、油彩で描かれた海の絵が好きである。
3階は展望スペースになっている。
3階から眺めると、ポートアイランドや兵庫の三菱重工の工場まで見える。
異人館の中で最も高所にあるだけあって、さすがに遠くまでよく見える。
さて、今まで長い間洋館を数多く紹介してきたが、今回で異人館シリーズは終了である。
この北野異人館街みたいに、ヨーロッパ人が実際に生活するために次々と洋館を建てたような場所は、これからの日本に現れることはないだろう。
そう思うと、異人館街は、開港を機に外国の商人が神戸に多く集った歴史を形として残した貴重な史跡と言える。