御影堂から南に歩き、石段を上がっていくと、蓮台寺多宝塔がある。
蓮台寺多宝塔は、私が史跡巡りで訪れた9番目の多宝塔である。
この多宝塔は、天保十四年(1843年)に再建されたものである。この前に建っていた多宝塔は、寛文十年(1670年)に暴風雨で倒壊した。
現在の多宝塔は、岡山県下最大の多宝塔であるらしい。岡山県指定重要文化財である。
宝形造りの屋根の上に載る相輪は、刻銘から、百済市郎右衛門が文政十一年(1828年)に由加山で鋳造したものだと分かっている。
内部は非公開だが、下層内部の四天柱には金箔が貼られているらしい。
多宝塔は、下層が方形で、上層が円形であり、その上に長い相輪が載るという優美な姿をしている。由加山の建物群の中では、最も美しい建物だ。
多宝塔から由加山の山上まで続く道がある。途中道が二股に分かれるが、右の道を進むと妙見宮に至る。
妙見宮には、北斗七星を神格化した妙見大菩薩を祀る。由加山全体の奥宮という位置づけである。
由加山の参拝客は多いが、この妙見宮をわざわざ訪れる人は稀だろう。私が訪れた時も、周囲には誰もいなかった。
妙見宮は静かな空気に包まれていた。ただ蝉の声が響くのみである。
妙見宮から再び賑やかな蓮台寺の境内に戻った。
次に見学するのは、岡山県下最大級の木造建築物であり、岡山県指定重要文化財となっている蓮台寺客殿である。
客殿は、享和元年(1801年)に再建された。
桁行九間(18.8メートル)、梁間五間(10.9メートル)の重層入母屋造り、本瓦葺という大建築である。
岡山藩主が由加山参拝時に宿泊した建物で、皇族などの身分の高い参拝者を出迎えるのにも使われた。
蓮台寺権現殿(奥の院)に登る石段から見下ろすと、客殿から蓮台寺総本殿、現在建築中の新本殿まで続く甍の連なりを眺めることが出来る。なかなかの壮観である。
これだけの建物を維持する苦労は馬鹿にならないだろう。
客殿の手前には、表門がある。表門を過ぎれば、客殿の玄関があるが、通常は閉じられている。身分の高い人物のために作られた玄関だろう。
玄関の脇に、拝観客用の入り口がある。400円で客殿内部を見学できる。
客殿内部は、障壁画に飾られた多数の座敷がある荘厳な空間であった。古く暗い日本の木造建築の味わいはいいものである。
次回は客殿内部を紹介する。