波々伯部神社の参拝を終えて国道372号線を東進した。
道は途中で、京都府方面へ行くルートと、大阪府能勢町方面に行くルートに分岐する。
その分岐点にある安田の大杉を訪れた。この大杉は、兵庫県指定文化財である。地名で言えば、兵庫県丹波篠山市安田になる。
この巨木は、一本だけでも森のように鬱蒼と葉が生えているので、通称「甚七森」と呼ばれている。
四方に伸びた幹や枝は、丹波篠山市川原の住吉神社の末社貴船大明神の境内を覆っている。
貴船大明神と言っても小さな祠で、上の写真の大杉の右奥に見える祠がそうである。
この木からは、不思議と優しさを感じた。この周囲を古くから気長に見守ってきた巨木である。
ここから北上し、丹波篠山市貝田にある曹洞宗の寺院、亀井山蔵六寺を訪れた。
本堂に、その木造薬師如来坐像の写真ポスターが貼ってあった。
「くすり、飲んだけ?」とある。薬師如来は、須弥山の東方浄瑠璃世界に住み、左手に薬壷を持ち、十二の大願を立て、衆生を病苦、無明から救うとされる仏様だ。
「くすり、飲んだけ?」は、薬師如来の御利益にあやかったキャッチフレーズだ。
蔵六寺の薬師如来坐像は、様式から鎌倉時代初期の製作と見られている。
現在の像を覆う金箔は、江戸時代末期の補修である。左手首の先と右手臂の先、薬壺も後世の補修である。
そのため、この像は国指定ではなく、兵庫県指定文化財となっている。
今のように医学が進歩していなくて、病気の原因がよく分かっていなかった時代の人々の不安な気持ちは、現在とは比べ物にならなかったことだろう。
そんな時代の人々は、薬師如来に縋るような思いで参拝したことだろう。
しかし考えてみれば、生命はいずれ衰え、必ず死を迎えるわけだから、生命という存在自体が、病気と一体であるとも言える。
薬師如来が本当に諭そうとしているのは、生老病死から逃れられない我々の宿命と思われる。
それを受け入れるのは辛いことだが、受け入れようが受け入れまいが、結果は一緒なのだから、結局は諦めるという選択肢しかない。
諦めの境地に立って、清々しく生きるのは難しい。自分の命はなかなか諦めきれないものである。思えば人は生まれた時から大きな宿題を背負わされていると言える。