メリケンパークの見学を終えて、北に向かって歩き始めた。次なる目的地は、神戸市中央区海岸通3丁目にある、神戸華僑歴史博物館と海岸ビルヂングである。
神戸華僑歴史博物館は、神戸中華総商会ビルの2階にある。
神戸港が開港した1868年に、欧米人が居留地に商館を開いたが、上海や香港の中国人も欧米人と共に来日し、居留地周辺に貿易商館を構えた。
そして居留地の北側に中国人街を形成した。それが今の南京町である。その後も中国大陸の動乱に伴う苦難から逃れるため、多くの中国人が海外に出て、その一部が神戸にも来た。
神戸には、今も多くの華僑が住んでいて、華僑のための学校、神戸中華同文学校もある。
神戸華僑歴史博物館では、神戸開港以来の神戸華僑の活動と歴史を、文物や文献・資料を通して紹介しているそうだ。
私が訪れた昨年12月26日は、生憎休館日であった。
海外に渡った日本人移民と比べ、華僑は同族意識が強いように感じる。その理由を知りたいと前々から思っている。
神戸中華総商会ビルの2棟西隣にあるのが、明治44年に建造された海岸ビルヂングである。
海岸ビルヂングは、明治大正期に、神戸の商業ビル建設を数多く手がけた河合浩蔵の設計で建てられた。煉瓦造三階建ての建物である。
竣工当時は、海岸通で1、2を争う名建築だったという。戦災で、正面中央のコーニス上に載っていた巨大なペディメントが失われたため、完成当時とは面影が異なるというが、それでも今では国登録有形文化財になっている。
外観は今でも美しい。2階の東西の窓の上には、唐破風様の装飾があり、特徴的である。
私が海岸ビルヂングの中に入ろうとすると、丁度小さい男の子を連れた中国人夫婦の観光客が通りがかり、ビルに入って行った。
男の子は、ビルに興味がないのか、1人ビルの前に残って座り込み、ゲームを始めた。
ビルに入ると、中国人夫婦の会話が森閑としたビル内に谺した。
私は、レトロビル内に響く中国語を聴いて、自分が上海あたりの古いビルに紛れ込んだかのような気持ちになった。
1階から3階まで、ビル中央を一直線に階段が貫いているのが、この建物の特徴である。
ビル内は直線と曲線を組み合わせたアールデコ調のデザインである。
海岸ビルヂングの中には、主にアパレル関係のお店や設計事務所などが入居している。洒落たお店ばかりだ。
3階に上がると、天井に嵌った美麗なステンドグラスが目に入る。
このステンドグラスが、この建物の画竜点睛と感じた。
良くできた建物からは、設計者がその建物に込めた思いが伝わってくる。私は建築のことはよく分からないが、この海岸ビルヂングからは、設計者の思いを感じた。
私は満足して階段を下り、ビルを出た。
いつの間にか中国人家族はいなくなっていた。