丹波杜氏酒造記念館から少し北に歩いた丹波篠山市呉服町に、丹波杜氏の一つ、鳳鳴酒造がある。
鳳鳴酒造の敷地の奥には、寛政九年(1797年)の創業当時の酒蔵である、「ほろ酔い城下蔵」が今も残っている。
ほろ酔い城下蔵は、現在では国登録有形文化財となっている。ほろ酔い城下蔵の内部には、鳳鳴酒造がかつて酒造で使用した道具類が展示されていて、無料で見学できる。
ほろ酔い城下蔵の入口から入ったところは、米蔵である。仕込みに使う白米を貯蔵していた場所である。
昨日の「丹波杜氏酒造記念館」の記事で紹介したように、洗米して水に漬けた米は、釜の上に置かれた甑(こしき)の中で蒸される。
ここでは、かつて実際に鳳鳴酒造で使われていた釜と甑を見ることが出来る。
甑を載せる釜の裏には、薪を入れる煉瓦造りの焚口がある。
蒸された米は、麹(こうじ)、酛(もと)、醪(もろみ)の材料として使われるようになる。
蒸米は、それぞれの用途に応じた冷やし方で冷やされる。近代になると、放冷機という機械で蒸米は冷やされたようだ。
蒸米の中で、麹用の蒸米を使って麹が作られる。
蔵の最奥には、高温に保たれた麹室がある。この中で、蒸米に種麹(もやし)を振りかけて、麹菌を繁殖させ、麹を作る。
麹室は、天井が低く、薄暗い。この蒸し暑い麹室での作業が、酒の出来栄えに大きな影響を持つ。
麹を蒸米と水に混ぜて酛が作られ、酛に麹と蒸米と水が混ぜられて醪が作られる。これを仕込みと言う。
醪は酒袋に入れられて、槽(ふね)という木製の入れ物に詰められ、上から押されて圧縮される。
槽の中で圧縮された醪から液体が染み出す。それを槽の下に設置された「たれつぼ」が受ける。
こうして絞り出された酒の上澄みを加熱して酵母の働きを止め、蔵でタンクに入れてしばらく貯蔵する。こうして熟成されてお酒が出来る。
ところで、ほろ酔い城下蔵の中では、現在も酒が貯蔵され、熟成されていた。
「夢の扉」というブランドのお酒は、桶の中で貯蔵されている間、音楽振動醸造装置によって、醪に振動を与えられながら熟成される。醪の中で酵母菌が音楽の振動を感じ、活性化して分子が細かくなって、まろやかなお酒になるという。
この装置から流れるクラシック音楽や、デカンショ節という篠山のデカンショ祭りで流れる音曲を聴いて、「夢の扉」は完成する。
ちょっと買って飲んでみたくなった。
お酒は人を酔わせる飲み物だ。杜氏たちは、自分たちの造った酒によって、多くの人が上機嫌になり、幸せな気分になるところを想像しながら酒を造る。
確かに夢のある作業だ。
お酒に限らず、モノづくりには夢が必要だ。自分の仕事の先に人の笑顔があると想像することが、仕事のモチベーションを高めるのは、いつの世も同じだろう。