淡路市志筑(しづき)の町並みに入る。
志筑の中心にある真言宗の寺院が、慈光山引攝(いんじょう)寺である。
引攝寺は、永禄年間(1558~1570年)の開基である。
志筑浜村の庄屋だった忍頂寺家の菩提寺として、寛永元年(1624年)に改築された。
山門の中の仁王像は、小さいながら、緻密に彫られた迫力ある像であった。
山門の脇には、地蔵菩薩を刻んだ六面石幢がある。
六面石幢は、なかなか精緻に彫られた石造品であった。実はこの引攝寺は、石造品の宝庫である。
境内に入ると、真ん中に嘉元二年(1304年)の銘のある石造十三重塔が建っている。
この石造十三重塔は、在銘の石造品としては、淡路島最古のものである。鎌倉時代のものと思えぬほど、風化せずに綺麗に残っている。
この塔は、ここから北西に約1キロメートルの三宅谷池のほとりにあったそうだ。忍頂寺家の持仏堂にあったものらしい。
一時徳島城に移されたが、塔が夜泣きするというので、元の場所に戻された。
戦後になって他の石造品と共にここに遷されたそうだ。
この石造十三重塔の左手には、石造五智如来像がある。
五智如来は、密教で言う法界体性智、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智の五つの智慧を5つの如来に当てはめたものである。
それぞれの智慧は大日如来、阿閦(あしゅく)如来、宝生(ほうしょう)如来、無量寿(むりょうじゅ)如来、不空成就(ふくうじょうじゅ)如来に当てはまる。
中心の石像が大日如来である。曼荼羅では、中心の大日如来の四方に他の四体の如来が描かれている。
仏教でいう智慧とは、賢さというより宇宙の法則のようなものを指していると思われる。
我々の住む宇宙が、仏の智慧に満たされているという考え方で、修行をすればその智慧に至る扉の鍵が与えられるということだろう。
石造五智如来像は、元禄四年(1691年)の造立である。
この石造五輪塔は、高さ約4.1メートルと巨大である。元和五年(1619年)の造立である。
境内には、弁才天を祀った弁天堂がある。
祀られている木製弁才天像は、なかなかふくよかであった。
こちらの弘法大師像は、なかなかの男前であった。
本堂には、本尊の阿弥陀如来像が祀られている。
内陣の奥には厨子がある。あの中に阿弥陀如来像が祀られているのだろう。
今の本堂と山門は、慶応二年(1866年)に建てられたものである。
本堂の裏には、樹齢約500年、高さ約30メートルのイチョウがある。
樹齢約500年ということは、引攝寺が建つより前から生えていることになる。
この地で一番長く生きているのはこのイチョウの木だろう。このイチョウの生命力の中にも、きっと五智如来の智慧が経めぐっていると思った。