石谷家住宅 その4

 石谷氏庭園をしばし眺めてから、石谷家住宅の2階へ上がる。

 ある意味で、この建物の最大の特色は、2階へ上る階段にある。

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洋風螺旋階段

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 石谷家住宅は、典型的な和風建築だが、階段は洋風の螺旋階段である。あくまでも洋風の木造階段で、和テイストを色濃く残している。曲線を描いた手摺が見事である。

 この木製螺旋階段を上がっていくと、頭上に木製の太鼓橋が見えてくる。

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太鼓橋

 私は今まで色んな邸宅を見てきたが、家の中に橋が架かっているのは初めて見た。

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太鼓橋

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 この太鼓橋を渡るとき、床が抜けないか心配したが、離れて眺めてみると、曲線を描いた手摺が、橋の上を通る重量を支える構造になっているのが分かる。

 和モダンと言っていいしつらいだ。

 さて、2階に上がってから、まずは洗面室を覗いてみる。

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洗面室への通路

 現在の洗面室は、元々は眺望のよい書斎として使用されていた。国指定重要文化財に指定される前の平成元年に、書斎が客用の洗面室に改装された。

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洗面室

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 洗面室の天井は、棹を組み合わせた複雑な形状の格天井である。

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洗面室の格天井

 アールデコ調の木製格天井で、大正から昭和初期の和洋折衷の様式を思わせる。

 今度は太鼓橋を渡って、奥の神殿室に行く。

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太鼓橋を渡る

 太鼓橋を渡ると、座敷が幾つかあり、そこを通ると神殿室に至る。

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座敷

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神殿室入口の欄間

 神殿室入口の欄間は、智頭出身の仏師、国米泰石による透かし彫りの彫刻が施されている。

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欄間の透かし彫り

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 影絵のような見事な彫刻だ。

 神殿室は、造り付けの拝殿を設けている。一室が丸々神殿となっている。神殿室は、主人の間の真上にあり、石谷家住宅で最も神聖な部屋である。

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神殿室の拝殿

 正月には、拝殿の右手に山鳥、左手に餅花をかけ、年桶を置いて祭祀を行っていたという。

 神殿室の天井は、これまた見事な格天井だ。

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神殿室の格天井

 神殿室から奥に行くと、さらに座敷があり、脇床に松平家の葵の家紋と池田家の揚羽蝶の家紋を描いた掛硯箱のようなものが置いてある。

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2階奥の座敷

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掛硯箱ようのもの

 しかし掛硯箱にしては大きいような気がする。どういう由来のものなのだろう。

 この奥座敷の欄間の彫刻のデザインも面白いものだった。

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欄間の彫刻

 2階の窓から庭園を見下ろすと、池から北側の庭園の様子を窺うことが出来る。

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2階から眺める庭園

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 石材を配った枯山水が眼下にある。

 ところで、石谷家住宅は、建物の北半分の家人の生活スペースだった部屋部屋は非公開となっている。

 公開スペースだけでもこれだけ広大なのだから、建物全体がどれだけ広いか想像がつかない。

 2階の窓から、非公開の建物北側の屋根が見える。

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建物北側の屋根

 それにしても驚くべき邸宅だ。

 石谷家住宅は、木の殿堂とも言うべき名邸宅である。しかしこのような邸宅を造ると、引き継いでいく子孫は大変である。

 後世文化財として認められる邸宅を造るのもいいが、一生仮住まいというのも、後に何も残らずシンプルでいいのかも知れない。