智頭宿と言えば石谷家住宅だが、その近辺にも風情ある民家が立ち並んでいる。
智頭宿の庄屋であった石谷家は、塩屋という屋号を持っていた。
塩屋本家の石谷伝三郎の次男吉兵衛が、天保年間(1831~1845年)に別家を立てて店を起こし、塩屋出店と呼ばれた。雑貨商などを営んだらしい。
明治22年(1889年)の智頭大火で、塩屋出店は焼けてしまったが、明治30年(1897年)に建物が再建された。
再建された旧塩屋出店は、国登録有形文化財となっている。
昭和5年に、旧塩屋出店の敷地内に、洋館風の療養所が建てられた。
現在その洋館は、智頭町出身の映画監督西河克己の映画記念館として公開されている。
旧塩屋出店の中庭に入ると、右手に旧塩屋出店の縁側のガラス戸が見える。少し波立ったガラスは、昭和初期のガラスの特徴であり、懐かしい。
中庭の奥には、2階建ての瀟洒な洋館が建っている。これが西河克己映画記念館である。こちらの建物も国登録有形文化財となっている。
残念ながら、私は西河克己監督の映画は観たことがない。吉永小百合や山口百恵といった昭和のスターをよく起用したようだ。
館内に入ると、映画のポスターが所せましと架けられている。
この中で、「春琴抄」「伊豆の踊子」「潮騒」のポスターが並んでいるのが目を引いた。いずれも山口百恵主演である。
どれも谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫という大正昭和を代表する小説家の作品を原作とする映画であるが、昭和50年前後の山口百恵の人気がいかに高かったかが分かる。
2階に上がると、白い天井に黄色い壁、緑色のブラインドという瀟洒な空間が広がる。
壁には映画ロケの写真などが飾られている。
文学や美術などの優れた作品は、数百年の時を超えても評価される。
映画というジャンルが誕生してから、まだ百数十年しか経っていない。今まで膨大な数の映画が作られてきたが、数百年後に評価されている映画はどんなものか、興味が湧くところだ。
旧塩屋出店を出て、智頭宿の中心部に行くと、御本陣跡がある。本陣は、参勤交代の大名が宿泊した宿である。
本陣跡には、木造瓦葺の洋館である智頭町中町公民館が建っている。
この公民館も国登録有形文化財である。
公民館前に、御本陣跡の石碑が建っている。
日本の都市部の大半は、戦時中の空襲で焼けてしまい、古い建物はほとんど残っていない。あるのは戦後に建ったビルばかりである。
空襲を免れた地方の城下町や宿場町には、古い民家や洋館が多数残っている。日本の風景は、都市部よりも地方の方が余程見どころがあると思うのだが、いかがだろうか。