兵庫県多可郡多可町加美区は南北に細長い。北端は、丹波国、但馬国と接している。
加美区鳥羽(とりま)は、その北端に近い場所である。
ここにあるのが、鍛冶の神様である、天戸間見命(あまのとまみのみこと)を祀る青玉神社である。
青玉神社の創建は詳らかではない。元々は、ここより北にある、播磨、但馬、丹波の三国の国境の接点にある三国岳の山上に奉斎されていたという。三国岳は、標高855メートルである。
いつしか、山麓のこの地に社殿が移ったらしい。
青玉神社は、明応二年(1493年)と安政三年(1856年)の二度に渡り火災に見舞われた。今の社殿は、万延元年(1860年)に造営されたものである。
この神社で驚くべきは、境内に生えている大杉である。計7本の大杉が、兵庫県指定文化財となっている。自然界の樹木が文化財になっていることには少し違和感を覚えるが、神社と一体となった景観ということで、文化財に指定されているのだろう。
拝殿の周辺には、巨木が集まっている。
7本の大杉は、いずれも樹齢1000年以上、高さ50~60メートル、根回り8~11メートル、幹囲4~8メートルの巨大さである。
日本では、巨大な樹木が昔からご神木として尊崇されてきた。ご神木となってもおかしくない巨木が、何本も生えている青玉神社境内の空気は、まさに森厳としている。
神威というものは、厳かな風景に接した時に感じるものではないか。
青玉神社では、毎年7月15日に近い日曜日に湯立て祭が行われる。
巫女が神前で浦安の舞を奉納し、その後境内で四方の舞を舞う。巫女は神酒と洗米で清めた釜の中の湯を二束の笹で左右に三度づつはねる。その湯を浴びると無病息災を得ることが出来るという。
本殿は、覆屋で覆われている。ところどころの彫刻が見事である。
流造のオーソドックスな本殿である。
本殿の裏手には、境内で最大の杉である夫婦杉がある。地上8メートルほどで二股に分かれた巨木である。
二股に分かれた幹が裂けないように、鎖を巻いて固定している。平安朝のころから、ここで生きていた樹木であろう。
史跡巡りをして感じるが、人間が造った建造物は、いかに見事であっても、自然の造形の前では小さな存在である。
その自然の造形に寄り添うように建てられた日本の建築物は、日本独自の景観を形成している。
今まで何度も書いてきたが、日本の国魂(くにたま)は、日本列島の自然の中に存在すると思う。
言うなれば、日本列島そのものが御神体である。スイフトスポーツで史跡巡りを続けるうちに、日本列島という御神体の上を這っているような印象を受けるようになった。