姫路城 その6 附好古園

 長かった姫路城シリーズも今日で終わりである。

 姫路城大手門を出て、内曲輪の周囲を歩くことにする。

 姫路城の内曲輪は、水が満々と湛えられた濠に囲まれている。

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姫路城の濠

 こうして見ると、B29のレーダーが濠の水を捉えた反応を見て、操縦手がこの辺を沼と判断したのも分かる気がする。

 姫路城は、いつの季節にきてもいいかと思うが、私は桜の季節が一番いいと思う。

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濠の向こうの天守

 上の写真の、石塁上の木は桜である。桜が咲けばどれだけ綺麗か、想像がつくだろう。

 この写真には写っていないが、手前の歩道沿いには柳も植えられている。柳の新緑と桜越しに見る天守は、大げさかも知れないが、涙が出るほど美しい。

 さて、姫路城の南西側には、姫路市制100年を記念して、平成4年に開園した日本庭園、好古園がある。かつて姫路城西御屋敷があった跡地に作られた庭園である。

 園内には、全部で9つの庭がある。全てを紹介することは出来ないが、それぞれ特色がある庭である。

 最も広い「御屋敷の庭」は、姫山原生林を借景とした池泉回遊式庭園である。

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御屋敷の庭

 大池には錦鯉が彩を添えている。

 また、好古園内には、茶室双樹庵がある。京都の数寄屋大工が技術の粋を傾けて作った本格的茶室である。双樹庵の前には、茶の庭が広がる。

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双樹庵と茶の庭

 他にも、苗の庭、流れの平庭、夏木の庭、松の庭、花の庭、築山池泉の庭、竹の庭がある。

 私は、瀬戸内海のアカマツの林をイメージした、松の庭が好きである。

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松の庭

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築山池泉の庭の鯉

 昔は日本庭園などさっぱり面白くないと思っていたが、不思議と年齢を重ねると、こういうものを良いように感じ始める。自然そのままの素材を生かしながら人の手を加えて作庭された日本庭園と、素材の味を生かす日本料理は似ているような気がする。

 好古園を出て、濠の周りを時計回りに歩く。

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千姫の小径

 姫路城西側の濠と船場川の間には、千姫の小径と呼ばれる土の道がある。春は桜、秋は紅葉が奇麗で、毎日散策してもいい道だ。

 千姫の小径を通って、城の北側に出る。観光客が城を北側から眺めることは少ないと思われる。北側からは、東小天守とロの渡櫓を手前に控えた大天守を見ることができる。

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北側から見た天守

 どこから見ても堂々とした姿である。

 城の西側に出る。帯郭櫓(腹切丸)の石垣の勾配が素晴らしい。

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西側から見た天守と帯郭櫓

 石垣の勾配と、帯郭櫓の建物と屋根の形が合うように、全体を計算して造られている。石垣の上辺がカーブしているのも珍しい。

 この城の全体の布置結構を考えた人は、何者なのだろう。桂離宮の設計者の小堀遠州は、歴史に名を残しているが、姫路城の全体を設計した人の名は伝わっていない。複数の人が設計に携わったのかも知れないが、これだけの統一感と調和の取れた城を見ると、1人の設計者が全体を構想したのではないかと思ってしまう。

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 この角度から見上げると、石垣下部の角度と大天守の角度が同一に見える。

 少し引いて見ると、石垣の高さとその上の建物の高さの比率や、大天守を頂点とし、大天守から離れるにつれて低くなる建物の配置が絶妙であることが分かる。

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西側から眺める姫路城

 各建物の屋根の頂点を線で結んでみると、富士山のような円錐形になる。私は、姫路城シリーズの初回で、姫路城を富士山に比べたが、あながち間違っていなかったのか。

 こうして横から姫路城を見ると、白鷺というより、白い帆を張って堂々と進む帆船のように見える。

 三島由紀夫は小説「金閣寺」の中で、金閣を時間の中を航海する船に例えたが、私は姫路城こそ時間の中を旅する船であると思う。

 時間の荒波を切り裂き、数々の危機を乗り越えながら進んできた姫路城が、これからの時代も、無事に航海を続けていくことを切に願う。